第20話 孤児院をつくろう


 戦争をすれば、当然、戦争孤児というものが生まれる。

 戦で親を失い、行き場をなくしてしまった子供たちだ。

 そこで、俺は考えた……!


「そうだ、孤児院を作ろう……!」


 だが、これはなにも善意からのものではない。

 子供というのは、洗脳しやすくていい。

 子供のうちから魔王軍がいかに素晴らしいかを教育する。

 そうすれば、決して反乱しない、忠実なしもべが手に入るのだ!


 ということで、俺は行き場のない子供たちを集めて、孤児院をつくった。

 子供たちの栄養状態は大事だから、孤児院の食事はとびきり豪華なものにした。

 とはいっても、これも決して善意からのものではない。

 たくさん食わせて屈強な肉体を作れば、のちのち兵士として役に立つからな。


 子供たちには身体も鍛えてもらわねばならない。

 孤児院の庭には、アスレチックなど、様々な遊具を置いておこう。


 それから教育も重要だぞ。

 兵士はなにも肉体だけじゃない。頭も重要だ。

 俺は孤児院の子供たちにはとびきりの教育を受けさせるように手配した。


 さあて、孤児院もだいぶ形になってきたな。

 俺はさっそく稼働しはじめた孤児院を視察にいくことにした。


 俺が孤児院にいくと、子供たちが一斉に寄ってきた。

 うお……!?

 なんだ……!?


「魔王様ー!」

「魔王様、ありがとう!」

「魔王様だいすきー!」


 なぜ、俺はこんなに子供たちに慕われているんだ……?

 い、意味が分からない……。

 俺はこいつらを、戦闘兵器にするためにこの孤児院に集めたのだぞ……?

 こいつらは、そのことをわかっていないのか……?

 しかもこいつらの親を殺したのは、紛れもない魔王軍なのだ。


「魔王様、ありがとうございます。魔王様のおかげで、毎日あたたかい布団で眠れます」

「えぇ……? 前はどんなとこで寝てたんだよ……」

「前は……硬い床でした……。親も村長に虐げられていたので、ろくな布団がなかったんです……」

「えぇ…………」


 子供たちから、お礼を言われる。

 あれ、もしかしてこの子たち、とんでもない境遇の子なんじゃ……?


「魔王様、あの毒親から解放してくださってありがとうございます……!」

「そんなにひどい親だったのか……?」

「それはもう……! 村長に虐げられたストレスを、すべてぶつけてきました。殴られるのは当たり前でした……」

「それは……かわいそうに……」


 もしかして、親のストレス、子供にしわ寄せいってない……?


「毎日美味しいご飯が食べれて、ほんとうに幸せです……!」


 なんだか子供たちの生の声きいてたら、涙が出てくるよ……。

 この子たち、マジで酷いめにあってきたんだな……。


「アスレチックもたくさんあって、毎日楽しいです! ここはまるで天国みたいです!」

「お勉強も、新しいことを知れて楽しいです……!」


 子供たちはそんなふうに、俺のことを慕ってくれる。

 だが、俺はこいつらを戦闘兵器に育てようとしているのだぞ……?

 俺はそんなふうに慕われるような人間ではない!

 子供たちよ。お前たちは勘違いしている。


「ふん、勘違いするでない。私はお前たちを血も涙もない戦闘兵器に育てあげようとしているのだぞ……? それなのに、無邪気にしおって。わかっているのか? 自分たちの立場を……!」


 俺がそういうと、子供たちはさすがに静まり返った。

 ふん、ようやく理解したか。俺が善人などではないことを。

 かと思いきや、


「わかっています。もちろん、それを理解したうえで、ぼくたちはここにいます」

「そうです! ぼくたちはこの恩を、魔王様にかえしたいのです!」

「ぼくたち、立派な兵士になって魔王様に恩返しします!」


 えぇ……まさか、それもわかったうえでなのか……?

 この子たち、なんて……健気なんだ……。


「そ、そうか……まあ、せいぜい俺の役に立てよ」

「はい……!」


 俺が孤児院を去ろうとすると、孤児院のシスターが話しかけてきた。

 シスターは孤児院の子たちを面倒みてくれている。

 シスターはフリンク村で求人募集をした。


「ふふ……魔王様、魔王様はほんとうにおやさしいのですね。戦争孤児たちのために、ここまでしてくださるなんて……」

「いや……? 俺は別に、自分の利益のためにやっているだけなのだが……」

「まあ、今はそういうことにしておきます」


 まったく、勘違いされるとは心外だ。

 俺は悪逆非道の魔王だ。

 子供たちのために、なにかをするような男ではない。

 俺は、悪に身を落とすと決めたのだから。

 それはすべて、世界征服のため――。



 ◇



 ちなみに。

 商業国家テスマンのその後、だが。

 サキュバスのアリナが総督になってから、いろいろ変わったらしい。

 国全体にうっすらと催淫をかけているおかげで、いろんな変化があったそうだ。

 まず、カジノでは、ギャンブルで負けまくる客が激増。

 催淫されているから、際限なく金を落とすそうだ。

 よって、カジノでの収入がさらに増えたという。

 おそるべきサキュバス……。


 それから、国を訪れた人間はなぜかえっちな気分になるせいで、娼館の売り上げも増したらしい。

 サキュバスに国を任せると、こうなるってわけか……。

 恐ろしい……。


 

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