第19話 魔王様こいつら変なんです……!再び


「魔王様こいつら変なんです……!」


 ある日、ギルドが俺にそう泣きついてきた。

 ギルドにはさんざん舐められるなと言ってあったのだが……。

 もう音を上げたか。

 どうしたというのだろうか。


「変……? なにがだ……?」

「それが、奴隷たち、やたらと士気が高いんですよね」

「それはいいことじゃないのか……?」

「そうなんですけど、なんか不思議なんですよ。それに、やたらと魔王様を崇拝しているというか……」

「えぇ…………。そういえば、まあ、なんかあいつら様子がおかしかったな」


 そういえば、あの街の連中はどうにも話がかみ合わなかったんだよな。

 戦争に負けたショックで、頭がどうにかしてしまったようだと思うほどだった。

 不気味な連中だから、俺はなるべく関わらないようにして、あとはギルドに丸投げしたかったんだけど……。

 しょうがない、ここは俺が直々に出向いて、魔王軍の恐ろしさを知らしめてやろう。


 ということで、俺はイクィシェントへ行った。


 俺がイクィシェントへやってくると、なぜだか奴隷たちから、満面の笑みで迎えられた。


「おお……! 魔王様だ……!」

「魔王様万歳……!」

「魔王様、この街を救ってくださりありがとうございます!」

「俺は魔王様のために命をささげる覚悟です!」


 あれぇ……?

 俺、なにかしたっけ……?

 別にこの街を救ったつもりもないんだけどな。

 俺がしたことといえば、この街をただただ征服しただけだ。

 なのになんで俺は感謝されているんだ……?

 不気味すぎる……。

 横を歩くギルドが、俺に同意を求める。


「ね? おかしいでしょう……?」

「うーん、まあ。たしかに。なんだか、変な街だな……」


 すると奴隷の一人が近づいてきて、俺に言った。

 彼は自分の腕を見せてきた。


「魔王様。俺のこの腕! 戦闘でちぎれてしまったのに、魔王様が回復魔法で治してくださりました。俺はこの腕を一生かけて魔王様のためにつかいます! ほんとうにありがとうございます!」

「ああ? そうだったっけ。まあ、腕を治すくらいどうってことないさ。奴隷が怪我したら治すのは当たり前だ。自分の奴隷の面倒を見るのは、主人として当たり前だろ?」


 俺は当然のことをしたまでだった。

 しかし、奴隷はそんなことはないと否定した。


「いえ! とんでもない! 前の町長のスパムは、怪我をした奴隷はすぐに殺処分をしていました……! それに比べたら、魔王様は神様です……!」

「えぇ…………? 前の町長頭おかしいのか……? なんで奴隷を殺処分するんだよ、もったいない……」


 奴隷ってのは、貴重な労働力だ。

 それをちょっと怪我したくらいで殺すなんて、もったいなすぎる。

 治せばいいだけの話なのに……。


「魔王様、俺の部隊の戦闘奴隷たちはさらにヤバいですよ……。みんな、やる気に満ちています」

「えぇ……なんでそんなことに……」

 

 戦闘奴隷たちが訓練している訓練場までやってきた。

 すると奴隷たちは、死にもの狂いで自分たちを鍛えようと、訓練しているではないか……!

 正規の魔王軍よりもはるかに高い士気。

 いったいなんでこんなことになってるんだ……?


「うおおおおおおおおおお! エルフさん、俺にもっとバフをかけてください!」

「うおおおおおおお! 俺はもっと戦える……! うおおおおおお!」

「うおおおおお! エルフさん、俺に回復を! 筋肉の超回復だあああああ! 俺はまだまだ戦えるぜ!」


 バフ役のエルフにバフを懇願する奴隷たち。

 そして模擬戦で怪我をしたというのに、ヒールされるが否やすぐにまた訓練に戻っていくやる気に満ちた奴隷たち。

 なんなんだこの暑苦しい空間は……。


「ギルド……お前、なにをやったんだ……? どうやってこいつらをここまでやる気にさせたんだ……?」

「い、いえ……俺はなにも……。ただ、こいつらやけに士気が高いんです。魔王様に恩返しをするとかなんだとか言って……」

「えぇ……? 俺なにもしてないんだけど……、なんでこいつらこんなに働いてんの……。ドMなのか……?」



 ◇


 

 俺はさすがに、この街おかしくね?と思うようになっていた。

 いくらなんでも、この街の連中はおかしい。

 俺たちが労働を強いても、反抗してくるどころか、嬉々として労働に勤しむ日々。

 いったいなんでこんなことに……?

 そういえば、と俺は思い出す。

 

 そういえば、街の連中はなにかにつけて、こう言っていたな……。


「いやぁ、前の街長に比べたら、ギルド様は神のようなお方だ……!」

「ちげえねぇ。魔王軍に支配されて、本当によかったよ……!」


 どうやら、こいつらが従順な原因には、前の街長とやらが関係しているようだな。

 俺は、ちょっと奴隷たちに直接きいてみることにした。

 そこらへんで訓練していた奴隷に、適当に話をきく。


「なあおい」

「これはこれは、魔王様……! なんでしょうか」

「なんでこの街の連中、こんなに働き者なんだ? 前からなのか……? 俺は12時間の労働を強いたはずだが……。普通文句を言ったりしないのか? なんでみんなあんなにやる気なんだ……?」

「え……。だって、そりゃあ、前の街長のときに比べたら、こんな労働なんてことはないですからね。みんな、魔王様のために働きたいんですよ!」

「うーん。その前の街長って、そんなにひどかったのか……?」

「ええ、そりゃあもう。前は休みなしのほぼ24時間労働でしたから」

「えぇ…………?」


 さすがにそりゃ嘘だろ……、と思う。

 だって、……え…………?

 前世の俺だって14時間労働で過労死したんだぞ……?

 そんな、24時間なんて、人間にできるものか?

 

 っていうか、どこかで聞いた話だな……?


「しかも、娯楽も休みもなしですからね。給料も貰えませんでしたし。寝るときは堅い床。全然眠れませんでしたよ」

「えぇ…………? そいつ……頭おかしいんじゃないのか……?」


 さすがにこれには俺もドン引きだ。

 なんだ、え?

 なんなんだこの街……?

 前世でなにかしたの?

 ひどすぎん?

 呪われてるのか?

 いくら奴隷でも、そんなに働かせたら効率悪いだろ……。


「今はほら、魔王様はお給料もくれますし、休みもある。最高の領主さまですよ! ギルド様は優しいですしね」

「ギルドが優しいのか……?」

「ええ、俺たち奴隷も同じ部隊の仲間だっていってくださいますし。まるで家族のように扱ってくれるんです!」

「そ、そっかぁ…………よかったね…………」


 俺は薄々気づきはじめていた……。

 あれ、この街、ヤバくね……?

 

 ていうか、フリンク村といい、この街といい、人間にはろくな街がないのか……?

 なんだか奴隷たちがかわいそうに思えてきた……。

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