第18話 慕われるデュラハンさん【サイド回】


【サイド:ギルド】


 俺はデュラハンのギルド。

 魔王軍の幹部クラス、将軍の一人である。

 奴隷の街イクィシェントを、魔王様から任されている。

 そして、魔王軍の中でも戦力の大部分を占めるのが、俺の部隊だ。


 今回、商業国家テスマンを攻め入るのにも、俺の部隊が駆り出された。

 俺は全力で魔王様の期待に応えようとした。

 イクィシェントで得た戦闘奴隷たちを、今回の戦闘で初めて投入することにした。


 戦闘奴隷たちなどを使うのは、正直気が引ける。

 彼らはあくまで戦闘のために奴隷紋で無理やりしたがわされているだけの存在だ。

 そんな連中に、なんの信念もない。

 剣の強さは信念の強さだというのが、俺の考えだ。

 だがまあ、魔王様の命令なので従うのみだ。


 しょせんは寄せ集めの戦闘奴隷、彼らにそれほどの戦力は期待していなかった。

 それなのに――。

 なぜだ、いったいなぜなんだ。


 戦闘奴隷たちの士気は、いように高かった。

 正規の魔王軍たちの士気をもはるかに凌駕するレベルで、彼らはやる気に満ちていた。


「うおおおおおおおおおお! いっぱい戦果をあげるぞ!」

「魔王様に恩返しするんだ……!」

「俺たちを受け入れてくださったギルドさまのためにも!」


 なぜ、彼らはこんなにも意気込んでいるのか……。

 俺はきいてみることにした。


「おい、お前たちは戦闘奴隷じゃないのか……? なんでそこまでやる気に満ち溢れているんだ……?」

「当然じゃないですか! だって、魔王様は俺たちをあの悪徳町長のスパムから救ってくださったんですよ!? そりゃあ、もちろん頑張るに決まっています。魔王様のために戦えるのなら、いくらでも……!」

「そ、そうか……。お前たちも魔王様のために戦うというのか、よし、志を同じくするもの同士、よろしくたのむ」

「はい……!」


 彼らの言っている理由はよくわからなかったが、とりあえず、魔王様のためにという部分は同じなようだ。


「それに、お金も貰えるんですよね……!? 俺たち、奴隷なのに……!」

「当然だ。お前たちは奴隷である以前に、俺の部隊の一員だ。もちろん、働きに応じた給料は支払う」

「おお……! 本当にお金がもらえるんですね……! よし……! 頑張ります……!」


 なにを驚いているのやら……。

 働けば、それに応じた金がもらえるのなんて、当たり前のことなのに……。


「ギルド様、俺たち一生懸命がんばります……! 俺たちを部隊に入れてくださってありがとうございます!」

「ああ、よろしく頼む」


 なぜだか奴隷たちからさっそく慕われているのだが、よくわからない。

 こいつらの考えはよくわからない……。

 もしかして、戦闘に負けたショックで頭がどうにかしてしまったのだろうか。

 かわいそうに……。



 ◇



 そして、商業国家テスマンとの戦闘がはじまった。

 戦況は、俺たちに有利な状況だ。


 なにせ、奴隷たちの士気が高すぎる。


「うおおおおおおおおおお!」


 一方で、相手の傭兵部隊の士気はそれほど高くはない。

 安易な精神論をいうわけではないが、やはり剣に込める思いの強さが、そのまま強さに直結する。

 奴隷たちの士気の高さは、魔王軍の下っ端たちが驚いてドン引きするほどだった。

 

「おいおい……あいつら頑張りすぎだろ……どっからあのやる気が湧いてくるんだ……?」


 戦闘奴隷たちは、なにものをも恐れぬ覚悟で、どんどんと戦況を切り開いていった。

 だが、一人、油断したのか、前に出すぎてしまったやつがいた。

 そいつは、今しも敵に囲まれて、やられようとしている。

 俺はすかさず、そいつのカバーに入る。


 ――キン。


「ギルドさま……!」

「気をつけろ。やる気があるのはいいが、死んではもともこもない」

「はい……! ありがとうございます……!」


 奴隷とはいえ、俺の部隊に入ったからには、立派な仲間だ。

 少しでも、死なせるわけにはいかない。


「うおおおおおおおお! いけえええええええ!」


 そして、戦闘は俺たちの勝利に終わった。


「いやぁ、すごかったです。さすがはギルド様。俺が危ない時に、救ってくださってありがとうございます」

「ふん、なに。危ない仲間を助けるのは当然のことだ」


 戦闘が終わり、イクィシェントに帰還する。

 イクィシェントに帰還し、俺はみんなに給料を支払う。


「よし、では倒した敵の数に応じて、給料を支払おう! 並べ!」

「うおおおおおおおおお! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 俺はみんなに給料を支払った。


「すげえ……! マジで、俺たち奴隷なのに金がもらえたぜ……!」

「すごい! 頑張った甲斐があったぞ……! 今までいくら頑張っても報われなかったのに……!」

「前の町長のスパムより、ギルド様は百倍以上最高だぜ……! まるで神様だ……!」

「うおおおお! これもう魔王軍に入ったほうが絶対幸せだぜ!」


 給料をもらって、奴隷たちは大喜びだった。

 ふん、大げさなやつらだ。

 命をかけて戦ってくれたのだから、このくらいの報酬は当然のものなのにな。

 いったいこいつらは、今までどんな悲惨な暮らしをしていたのだ……?

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