第17話 救われた国民【サイド回】


【サイド:シュネスカ】


 俺の名はシュネスカ。

 商業国家テスマンに暮らす、平凡な男だ。

 はっきり言おう、この国は最悪だ。

 

 まず、この国の税金は高すぎる。

 とてもじゃないが、こんな税金を払っていては暮らしてなどいけない。

 そこにさらに子供の学費。

 学費も法外なまでに高かった。

 そしてなにより、国王のデルモンという男が最低最悪なやつだった。


 税金を待ってもらおうと直談判しにいったら、あやうく妻を娼館に売られそうになった。

 あげくに、俺の腕に奴隷紋を入れようとまでしてきやがった。

 正直、デルモンはいかれた男だ。

 なんでこんないかれた国に住んでしまったのか。

 俺は激しく後悔していた。


 できれば外国に逃げたいが、それも国の法律上難しい。

 俺には永遠に救いはこないのだろうか。

 そんな閉そく感があったある日、テスマンに魔王軍が攻めてきた。

 俺は思った、いっそのこと、魔王軍にこんな国は滅ぼされてしまえばいいのだと。


 だが、結果は違っていた。

 魔王軍はデルモンを討ち取ると、この国を改革しはじめたのだ。

 

 魔王は我々を城下広場に集めると、演説をはじめた。

 いったいなにをするのだろうと思った。

 もしかしたら、俺たち全員殺されるのかも。

 それか、魔王軍でこきつかわれるのだろうか。

 奴隷同然の暮らしをさせられてしまうのだろうか。


 さすがにデルモンの時代よりひどくなるなんてことにならないといいが……。


 恐れる俺たちに、魔王はとんでもないことを口にした。


「くっくっく、今日からこの国の税金は収入の3割だ……!」


 は……?

 俺は、魔王の言っている意味がわからなかった。

 税が、収入の3割だと……?

 デルモンは俺たちから税金の9割を強奪して、私利私欲のために使っていた。

 なのに、魔王は3割でいいというのか……?

 意味がわからなかった。

 この人には、欲というものがないのか……?

 ていうかそもそも、そんな少ない税で国を運営できるのか……?


 俺たち国民は、あまりのことに言葉を失った。

 俺は想像してみた、もし税金がそんなに少なくなるのなら……。

 自由にお金が使えるのなら、それはどんなに幸せだろうと。

 これまで、必死に働いてもその多くを税金でもっていかれていた。

 額面上はそれなりに稼いだつもりでも、驚くほど手元に残る金は少ない。

 それはなんというか、なにか騙されたような気になっていた。


 そんなに金があれば、子供にもっといい教育を与えられる。

 もっといい暮らしができる。

 これまで趣味に金を使うなど考えたこともなかったが、好きだった本を集めれるかもしれない。

 そうだ、国内でいいから、一度旅行にもいってみたいな。

 新婚旅行なんかいったことなかったからな。

 だが、いくらなんでもおかしいんじゃないのか。

 魔王はなにを考えているんだ。

 なにか裏があるのではないか。

 そう考えざるを得ない。

 だが、それどころか、魔王はさらにとんでもないことを言い出した。


「ま、まあそうだな……。よし、子供のいる世帯は2割に減税だ……! これでどうだ……!」


 これには口を開けて呆けるしかできなかった。

 なにがどうなったら2割の税金なんて話になるんだ……!?

 しかも、うちはちょうど子供のいる世帯だ。

 なんだかよくわからないが、拍手をしておこう。

 すると、まばらだが拍手が巻き起こった。

 みんなまだ現実味がなくて、困惑しているようすだ。

 俺も、まだ半信半疑だ。


 それから、魔王のとんでも発言はまだまだ続く。

 魔王は旅行を推進するなどと言い始めたのだ。

 意味が分からない。

 この国では、国外に逃げられないように、旅行などで外の国にいくには、巨額の金がかかる法律になっている。

 だから、そんな急に旅行をしろと言われても、どうすればいいかわからない。

 こんな、夢のようなことがあっていいのか……?


「よし、明日から『GO TO 魔界』キャンペーンを開始するぞ! 旅費の15パーセントはクーポンで!」


 お、俺たちもついに、この国を出ていっていいのか……?

 そんな嘘みたいなこと、許されるのか。

 俺は信じられない思いだった。

 気が付くと、俺は手を挙げて、魔王に質問をなげかけていた。


「あの……国から出るのにお金はいらないのでしょうか……?」

「は……? もちろんだが……?」

「そ、そうですか……。ありがとうございます」

 

 どうやら国から出るのに金はいらないらしい。

 意味が分からない……。

 まさかこの国が、そんな普通の国みたいになるなんて……。


「あ、あの……では、他の領地への移住はどうなるのでしょうか……? 旅先の土地が気に入ったら、そこに移住しても構わないですか……?」

「あーうん、まあもちろん、魔王領の中なら好きに移住してもらってもいいけど。まあ、あまりにも人材の流出が多すぎると困るが……」

「そうですか……! ありがとうございます」

 

 しかも移住することも許されるようだ。

 俺もまだ移住するまでは考えていないが、これはとんでもないことだ。

 これまでのこの国の常識がすべて変わる。

 とりあえず、魔王さまのおかげで、この国も変わっていくのだろう。

 そういう希望を感じ始めていた。


 さらに魔王は、後日、こんなことも言い出した。


「よし、今日から消費税は5パーセントだ……!」


 これも意味が分からない。

 これまで25%もとられていた消費税が、5パーセントだと……!?

 そんなの、物を買いたい放題じゃないか……!


 実際、魔王のこの発言以降、国内の消費が加速した。

 そして結果的に、国内の経済がかなり活性化することになったのだ。

 

 さらに魔王は学費まで免除してくれるという。

 俺はもうどこから礼を言っていいかわからなかった。

 

 魔王様、この国を救ってくれてありがとうございます。

 この国を征服してくださり、心から感謝します。

 直接魔王様に会える機会もないので、俺は家に祭壇を作り、魔王様を崇め、お礼を毎日言うことにした。

 

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