第21話 ドワーフの街シトルリンダ


 村人たちの話によると、フリンク村の村長はかなりのやべえ奴だった。

 奴隷たちの話によると、イクィシェントの町長はドのつくクズだった。

 ってことは……と俺は思った。

 国民の反応を見るに、もしかして、テスマンの王様もヤバいやつだったんじゃないのか……?

 ということで、疑問に思ったことは直接きいてみることにした。


 俺がテスマンに行くと、みんなから大歓迎を受けた。


「魔王様だ……!」

「魔王さま万歳……!」


 これもどこかで見た光景だ……。

 俺はただ征服しただけなのに、やけに感謝されている。


 俺は直接、国民に尋ねてみることにした。


「なあ、この国を前おさめていた、デルモンって、どんなやつだったんだ? 今とどう違う……?」

「それはもう、酷い人でしたよ」


 国の青年、シュネスカは答えた。


「まず、税金が収入の9割もとられていたんです……!」

「えぇ……? それ、いかれてるだろ……そんなのでどうやって暮らしてたんだ……」


 あれ、なんか思ってたよりもデルモン、やばいやつかもしれない。


「おかげでこっちは旅行に行ったこともなくて、娯楽なんか全然ありませんでしたよ……。あ、そうだ。国から出るのにも多額のお金がかかったんですよ! 今じゃ考えられない話です」

「えぇ…………それは、縛り付けすぎだろ……」


 どんな国だよ……。

 そんな国、聴いたこともないぞ……。


「消費税も25%でしたからね。贅沢はできませんでした。それに、子供の学費も高かった。だから、魔王様にはほんとうに感謝しているんです……!」

「えぇ…………日本より高いじゃん……」

「日本……?」

「あ、いや、なんでもない」


 そんな国、絶対に住みたくないよな……。

 ていうか、そんなことしてまで国民をしめつけて、自分だけ私利私欲を肥やすなんて、デルモンはとんでもないやつだったんだな……。


「今は魔王様のおかげで、この国の国民はみんな幸せに暮らしていますよ」

「そっか……それはよかった……」


 うん、やっぱりこの国もやべえじゃないか……。

 



 

 次に攻めるのは、ドワーフの街シトルリンダという場所だ。

 ドワーフの街というだけあって、シトルリンダは武器の生産量世界一のすごい街だ。

 なぜこの街を攻めるか、それはこの街が、武器生産のかなめだからだ。

 この街を抑えれば、大量の武器が手に入る。

 そして帝国軍側の武器の供給源を経つことにもなるのだ。


 俺は大盗賊ブライを連れて、シトルリンダに攻め入った。

 ドワーフたちは伝説級の武器をいくつも作っている。

 当然、シトルリンダの武器庫には高価な武器がいくつも眠っている。

 シトルリンダの防衛軍は、それはもう高価な武器ばかりを持った連中ばかりだ。

 なので普通に戦えば、武器の差で、こちらがかなり不利になる。

 だが、それを扱っているのはしょせんはドワーフだ。

 

 ドワーフは、生産こそ得意な種族だが、戦闘にはあまり向かない。

 なぜなら、ドワーフは頭身が低く、手足も短いからだ。

 だがドワーフたちは自分たちの武器に絶対的な自信を持っている。

 だから、外部から多種族の傭兵なんかやとったりはしない。

 自分たちで自分たちの武器を扱えば、どんな相手にでも勝てると過信しているのだ。

 今回は、そこを逆手にとる。


 今回の部隊長に、大盗賊ブライを選んだのには、わけがある。

 ブライの率いる大盗賊団ブラッディシーフは、魔王軍きっての武闘派集団だ。

 それだけじゃなく、彼らには、共通する強力なスキルがある。

 それは『スティール』という魔法だった。

 スティールを使うと、相手の持っている武器を奪うことができる。

 ただし、奪える確率は、確実ではないがな……。

 だが、それでも作戦としては十分に機能する。


 盗賊団はみな戦闘のスペシャリストたちだ。

 だから武器さえ奪ってしまえば、こちらのほうが有利になる。

 武器が奪えるまでは防戦に徹して、武器を奪ってからは一転攻勢だ。

 作戦は、見事に成功した。


 ドワーフたちの武器を奪って、盗賊団が一気に街まで流れ込む。

 そしてドワーフの親方を討ち取って、俺たちの勝ちだ。

 どうやらこの街の町長は、町長兼親方と呼ばれているようだ。


 さて、街を手に入れたからには、この街の生産力は俺のものだ。

 ドワーフたちをこきつかって、大量の武器を手に入れてやる……!


 俺は工房に、ドワーフたちを集めた。


「クックック、今日からお前たちにはノルマを与える! 一週間でSランクの武器を5本、Aランクの武器を50本つくれ! わかったな……!」


 まあ、この街の生産力を考えれば、フル稼働させれば無理のない範囲だろう。


「わ、わかりました……。それだけでいいんですか……?」

「それだけって……これ結構きついと思うけど……?」

「も、もし納期より早めに終わったらどうすればいいですか……?」

「は……? いや……納期より早く終わることなんかあるのか……? いやまあ、もしもその場合は、普通にあとは休みでいいけど……」

「あ、ありがとうございます……!」


 おかしなことをきく連中だ。

 俺はかなりキツイノルマを課したのにな……。

 

 それからしばらく、工房の中を見て回っていた。

 すると、やけに工房内の道具が汚れていることに気が付いた。

 どのトンカチも、すべて汚れている。


「おい、このトンカチ、いつから変えてないんだ……?」

「それはもう……5年くらいになりますかね……」

「うーん、こんなんじゃ効率も悪いだろ……よし、俺が予算を出す。工房内の道具全部買い替えるぞ!」

「え……!? あ、ありがとうございます……!」


 幸いなことに、金なら、商業国家テスマンの金庫に腐るほどあったからな。

 ここはいい使い道だろう。

 生産の拠点に投資することは、戦争においてもっとも大事なことと言ってもいい。


「ていうか、壁とかもやけに汚れているな……。見栄えも悪いし、掃除もちゃんとできてない……よし、工房を改装しよう!」

「いいんですか……!?」

「もちろんだ、気持ちのいい環境で仕事したほうが効率もいいからな!」

「ありがとうございます……!」


 まったく、前の町長はどんな統治をしていたんだ……?

 こんな環境じゃ、働く気も失せるだろうに……。

 ドワーフたちは掃除をろくにしないのだろうか。

 そこで、俺は思った。

 あれ、もしかしてこの街も、やばい街なんじゃないか……?

 うん、なんかやばそうだもんな。

 まあでも、あまり考えないようにしておこう……。


 それから、俺は前の町長がどんなやつだったか調べるために、彼の部屋を調べた。

 すると、いろいろとヤバい書類が見つかったりした。

 その中にあったのが、『秘伝のレシピ』なるノートだった。


 そこには、武器を作る際のコツや、金属の調合の一番バランスのいい割合などが書かれていた。

 これは……なかなか使えるんじゃないのか……?

 俺は一人のベテランドワーフにそのノートを見せてみた。


「おお……! これは、伝説のマル秘ノートじゃないですか……! い、いいんですか……!? 俺たちが見てしまっても……!」

「ああ、うん。まあ、前の町長死んでるしな。別にいいんじゃないのか? 適当に役立ててくれ」

「ありがとうございます……!」


 よし、あとは大盗賊ブライにこの街を任せて、俺はまた次の街に行くことにしよう。

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