第13話 魔王様こいつら変なんです


「魔王様こいつら変なんです……!」


 ある日、オルグレンが俺にそう泣きついてきた。

 オルグレンにはさんざん舐められるなと言ってあったのだが……。

 もう音を上げたか。

 どうしたというのだろうか。


「変……? なにがだ……?」

「それが、俺も頑張って村の連中に厳しくあたったんですがね……。やつら、俺を恐怖するどころか、俺のことをまるで聖人君子みたく崇めてくるんです。こっちは必死に悪逆を尽くしているつもりなんですがね……」

「えぇ…………。そういえば、なんかあの村、様子がおかしかったな」


 そういえば、あの村の連中はどうにも話がかみ合わなかったんだよな。

 戦争に負けたショックで、頭がどうにかしてしまったようだと思うほどだった。

 不気味な連中だから、俺はなるべく関わらないようにして、あとはオルグレンに丸投げしたかったんだけど……。

 しょうがない、ここは俺が直々に出向いて、魔王軍の恐ろしさを知らしめてやろう。


 ということで、俺はフリンク村へ行った。


 俺が村へやってくると、なぜだか村人たちから、満面の笑みで迎えられた。


「魔王様だ……!」

「魔王様万歳……!」

「魔王様、この村を救ってくれてありがとうございます!」

「魔王様最高!」


 あれぇ……?

 俺、なにかしたっけ……?

 別にこの村を救ったつもりもないんだけどな。

 俺がしたことといえば、この村をただただ征服しただけだ。

 なのになんで俺は感謝されているんだ……?

 不気味すぎる……。

 横を歩くオルグレンが、俺に同意を求める。


「ね? おかしいでしょう……?」

「うーん、まあ。たしかに。なんだか、変な村だな……」

「これだけじゃないんです。鉱山はもっとヤバいですよ……」

「えぇ…………」


 俺たちは鉱山にやってきた。

 そこでは、とんでもない光景が繰り広げられていた。


「うおおおおおおおおおお! エルフさん、俺にもっとバフをかけてください!」

「うおおおおおおお! 俺はもっと働ける……! うおおおおおお!」


 エルフたちに付与魔法を懇願し、懸命に働く村人たちがそこにいた。

 村人たちは、まるでなにかに急かされるように、ピッケルをふるう。

 まるで自分で自分にむちをふるうかのように、必死に働く村人たち。

 ど、どうなってんだ……!?

 なんでこいつら、こんなにやる気に満ち溢れているんだ……。


「オルグレン……お前、なにをやったんだ……? どうやってこいつらをここまでやる気にさせたんだ……?」

「い、いえ……俺はなにも……。ただ、こいつらやけに士気が高いんです。魔王様に恩返しをするとかなんだとか言って……」

「えぇ……? 俺なにもしてないんだけど……、なんでこいつらこんなに働いてんの……。ドMなのか……?」


 

 ◇

 


 俺はさすがに、この村おかしくね?と思うようになっていた。

 いくらなんでも、この村の連中はおかしい。

 俺たちが労働を強いても、反抗してくるどころか、嬉々として労働に勤しむ日々。

 いったいなんでこんなことに……?

 そういえば、と俺は思い出す。


 そういえば、村の連中はなにかにつけて、こう言っていたな……。


「いやぁ、前の村長に比べたら、オルグレン様は神のようなお方だ……!」

「ちげえねぇ。魔王軍に支配されて、本当によかったよ……!」


 どうやら、こいつらが従順な原因には、前の村長とやらが関係しているようだな。

 俺は、ちょっと村人に直接きいてみることにした。

 村にいる、フィンという名の青年に、話をきく。


「なあおい」

「これはこれは、魔王様……! なんでしょうか」

「なんでこの村の連中、こんなに働き者なんだ? 前からなのか……? 俺は10時間の労働を強いたはずだが……。普通文句を言ったりしないのか? なんでみんなあんなにやる気なんだ……?」

「え……。だって、そりゃあ、前の村長のときに比べたら、こんな労働なんてことはないですからね。みんな、魔王様のために働きたいんですよ!」


 フィンは、けろっと、そんなふうに話す。


「うーん。その前の村長って、そんなにひどかったのか……?」

「ええ、そりゃあもう。前は16時間労働でしたから」

「えぇ…………?」


 さすがにそりゃ嘘だろ……、と思う。

 だって、……え…………?

 前世の俺だって14時間労働で過労死したんだぞ……?

 そんな、16時間なんて、人間にできるものか?


「しかも、娯楽も休みもなしですからね。給料も貰えませんでしたし。寝るときは堅い床。全然眠れませんでしたよ」

「えぇ…………? そいつ……頭おかしいんじゃないのか……?」


 さすがにこれには俺もドン引きだ。

 なんだ、え?

 なんなんだこの村……?

 前世でなにかしたの?

 ひどすぎん?

 呪われてるのか?


「今はほら、魔王様はお給料もくれますし、休みもある。最高の領主さまですよ! オルグレン様は優しいですしね」

「オルグレンが優しいのか……?」


 オルグレンは一応、魔王軍では恐れられているんだがな……。

 ゴブリンたちからは、鬼の将軍とまで呼ばれている。


「だって、バルヴグレムの果物を差し入れしてくださったり、子供にやさしかったり。私たちを殴らないし、鉱山までわざわざやってきて、喝を入れてくださったりもします。とても人気なんですよ」

「えぇ…………その果物……たぶん本人は嫌がらせのつもりだぞ……?」

「いやいや、そんなわけないじゃないですか。前の村長のときは、食べ物なんか渇いたパンしかなかったんですから。果物なんて、ごちそうですよ!」

「えぇ…………あの…………その…………うん。強く生きろよ……」


 ああ、うん。

 なんとなくわかった。

 この村やべえわ。

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