第11話 救われた奴隷【サイド回】


【サイド:奴隷】


 俺の名はシャルル。

 奴隷の街イクィシェントで働いている奴隷だ。

 前の町長は酷いやつだった。

 俺たち奴隷を、人間とも思っていなかった。

 だがある日、魔王軍がイクィシェントを襲った。

 町長のスパムはあっさりと死んだ。


 正直、あの町長が死んでざまぁみろと思ったね。

 どうやら最後はクソの海でおぼれ死んだようだ。

 あの最悪なおっさんにふさわしい最後だと思うよ。

 それから、この街を支配していた貴族たちも、その多くが逃げられずに死んだそうだ。

 だが、これにて俺たち奴隷が自由になる、というわけではない。


 ただ、街のトップが変わった、それだけだ。

 俺たちはこれからも、奴隷として虐げられ続ける。

 しかも今度は、魔王軍だ。

 魔王軍といえば、悪逆非道で有名な連中だ。

 それにやつらは俺たち人間とは違って、魔族だ。

 魔族からしたら、人間なんてほんとうに、どんな扱いをされるかわからない。

 それこそ、人間扱いはされないだろう。

 もしかしたら、以前よりも酷いことになるかもしれない。


 戦いが終わり、俺たち奴隷は広場に集められる。

 そして魔王が、俺たちに向かって話をしはじめる。

 いったいどんな酷い仕打ちが待っているのだろうか。

 俺は先の戦いで、腕を怪我してしまった。

 まあ、怪我をした奴隷なんか、働けないから処分されるだろうな。

 俺の命もここまでか……。

 

 そう思っていたら、魔王は意外な言葉を口にした。


「よし、この戦いで怪我をした奴隷はこっちへこい。俺が治してやる」


 え……?

 は……?

 今、なんていったんだ?

 怪我を治してやると言ったのか……?

 周りの奴隷たちは、信じられないというようすで、ざわざわし始める。


 そして魔王は、得意の回復魔法で、奴隷たちを治療しはじめる。

 腕を失った奴隷、目を失った奴隷、みんな、回復魔法で元気になっていった。

 どういうことなんだ……。

 魔王はいったいなにを考えている……!?

 そしてついに俺の番になった。

 魔王は、俺の腕を治してくれた。

 信じられなかった。


 俺は、このまま殺処分されると思っていたのに……。

 一命をとりとめたどころか、腕まで治してもらってしまった。

 魔王、もしかして、この人はいい人なのかもしれない。

 少なくとも、前のスパムよりはましだろう。

 俺ははやくも魔王を信頼しはじめていた。


「よし、次は労働時間についてだ」


 いや、だが魔王の顔つきがかわった。

 やはりな、やはり俺たちは奴隷。

 過酷な労働を強いられるに決まっている。

 どうせ俺たちを治したのも、働かせるためだろう。

 そして魔王は、こう言った。


「クックック。よし! おまえたち奴隷は一日12時間の労働だ……! しっかり働いてもらうからな……!」


 な……!?

 俺は言葉を失った。

 ど、奴隷の労働時間がたったの12時間だと……!?

 そんなの、どの世界でもありえないぞ……!


 となりの奴隷たちと、ざわざわ会話を交わす。


「お、おい……? 冗談だよな……? あの魔王様はなにを言っているんだ……?」

「さ、さあ……俺たちをからかってるんじゃないのか……?」

「奴隷に休みがあるとか、ありえないぞ……」


 俺たちがしばらくざわざわとしていると、魔王はさらに言葉をつづけた。


「よ、よし。じゃあノルマを達成できたら、10時間で許してやる……!」


 な……!?

 俺はさらに言葉を失った。

 奴隷にノルマって、ありえないだろ……!?

 奴隷ってのは、無償でいくらでもこきつかえる労働力、だからこそ重宝されているというのに……!

 それにノルマを与えて、10時間でいいだと……!?

 今まで俺たちは、ほぼ24時間、寝る時間以外はすべて働かされてきた。

 10時間でいいなんて、そんなの一日の半分以上休めるじゃないか……!


 あまりにもの出来事に、俺たちはざわざわするどことか、みな一様に言葉を失った。

 俺たち奴隷は一言も発することができなくなっていた。

 そこにとどめを刺すように、魔王はまたとんでもないことを言い出した。


「それから、給料は利益の1割だ! それ以上はびた一文やらないからな……!」


 は…………?

 きゅ、給料……?

 頭がくらくらする思いだった。

 そのくらい、魔王の言葉は、俺たちにとって、甘かった・・・・


 奴隷に給料を支払うような領主が、この世界のいったいどこにいる……。

 しかも、利益の1割も支払うなどと、意味不明だ。

 俺たちは、すっかりこの魔王さまにやられていた。


 もしかして、ここは天国なのでは……?

 魔王様、俺たちはあんたに一生ついていく……。

 そう思い始めていた。

 今まで、奴隷として、感情を殺していきてきた。

 いくらがんばっても、なにも報われない生活を送っていた。

 そんな俺たちに、急遽訪れた幸福。

 これはもう、乗っかるしかねえ。


 俺たちは魔王様のために、全力で頑張ろう、そう思った。




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