第10話 奴隷の街を改革する


 魔王軍はみごと、町長の首を持ち帰った。

 これにて、奴隷の街イクィシェントも征服完了だ。

 さあて、こっからが大変だぞ。


 奴隷たちの所有者である町長が死んだことで、奴隷紋の権限が、新しく街を支配した俺に移ったようだ。

 これで、奴隷たちはみんな俺の言うことをきいてくれる。


 ようし、奴隷たちをこきつかってやるとするか。

 奴隷たちは、前の村の連中のように、反逆の恐れがない。

 だから、まえ以上にブラックにこきつかってやっても大丈夫なのだ。


 だが今回の戦闘で、かなりの奴隷がけがをしてしまっている。

 ちなみに、魔王軍にはなるべく奴隷は殺すなと命令をしておいた。

 理由は簡単だ。

 奴隷は貴重な労働資源だからな。

 みすみす殺すのはもったいない。


 だから、ちゃんと怪我をした奴隷も、有効活用する。

 俺は、魔王だからな。

 人間を回復することなど、簡単にできる。

 それこそ、欠損奴隷の腕を生やしたりなんかは、朝飯前だ。


 まず、俺は今回の戦闘でけがをした奴隷たちの傷をいやすことにした。

 

「よし、この戦いで怪我をした奴隷はこっちへこい。俺が治してやる」


 俺は奴隷たちを並ばせ、回復魔法をかけていった。

 まあ、これだけ大量の回復魔法をかけるのは、かなり魔力を使うし、キツイ。

 だけど、俺がつかれるくらいで労働力が手に入るのなら、お安い御用だ。


 よし、これで奴隷たちは元気満タンだ。

 ついでに、もともと欠損をしていた奴隷なんかも治しておいた。

 奴隷たちにはいっぱい働いてもらわないといけないからな。

 奴隷たちは元気なほうがいい。


 さあて、だが俺は悪逆非道の魔王だからな。

 なにも善意で奴隷を治したわけじゃない。

 奴隷たちには元気になったのなら、働いてもらわないといけない。

 どうやらこの街では、奴隷たちを前からずっと働かせていたようだが、あまり効率的ではないな。

 俺によって、この街を改革してやろう。


 よし、まずは労働時間だ。

 あまり成果があがっていなかったからな。

 おそらくこれまではさぼったりしていたのだろう。

 だが、俺が管理するからには、そんなのは許さない。

 しっかり長時間労働してもらうからな。


 奴隷の場合は、無理やり命令できるからな。

 だから、奴隷のモチベーションなんかは気にする必要があまりない。

 なので、死ぬギリギリまで働かせてやるぜ……!

 

 前世の俺は1日最低14時間は働いていた。

 つまり、人間は14時間働くとすぐに死ぬ。

 だからといって、魔王軍と同じ8時間労働だと舐められるだろう。

 フリンク村の村人たちには10時間労働だったな。


 よし、こいつら奴隷は12時間といこうか。


「クックック。よし! おまえたち奴隷は一日12時間の労働だ……! しっかり働いてもらうからな……!」


 俺がそう言うと、奴隷たちの集団はざわざわと騒ぎ始めた。

 さ、さすがにやりすぎだったか……?

 ま、まあそうだよな……。

 そりゃあ、文句も出るだろうな。


 奴隷の士気は関係ないとはいえ、やはり無理やりだと効率も悪いだろう。

 少しでもやる気で仕事してもらったほうが、効率がいいだろうからな。

 ここは少し、妥協して譲歩してやるか。


「よ、よし。じゃあノルマを達成できたら、10時間で許してやる……!」


 俺がそういうと、今度は奴隷たちは静まり返ってしまった。

 ま、まあ文句はないということだろう。

 これでよし、と。


「それから、給料は利益の1割だ! それ以上はびた一文やらないからな……!」


 村人のときはもっと給料をやっていたが、まあ奴隷だからこんなもんだろう。

 俺も魔王軍を運営していくのに、金が必要だからな。

 ここは我慢してもらうしかない。


 

 ◇


 

 奴隷たちに各種必要なことを命令していると、デュラハンのギルドがなにやら奴隷と試合をしはじめた。

 奴隷の中に腕のいい剣士がいたようだ。

 ギルドは奴隷の男と剣を交えた。

 そして、試合が終わると、ギルドは男にいった。


「なかなかいい剣をふるう。お前、私の部隊に入る気はないか……?」

「え……? お、俺が……? でも、俺は奴隷で……」

「そんなのは関係ない。魔王様にかかれば、奴隷紋なんてすぐに消せる。それに。お前のような剣士を腐らせておくのももったいないしな。魔王様は効率を重視される。ねえ、魔王様、いいでしょう?」


 ギルドが俺に尋ねる。

 俺は「好きにしろ」と答えた。

 奴隷ひとりくらい好きにすればいい。

 腕のいい剣士なら、鉱山や農場で腐らせておくより、剣をふるわせたほうがいいだろうしな。


 そういえば、奴隷の中には、他にも戦えるやつらがいたな。

 イクィシェントの奴隷には、労働用の奴隷、それから娼婦奴隷、そして戦闘用の奴隷など、さまざまな奴隷がいた。

 せっかくだから、戦闘用の奴隷は鍛えて戦力にしようか。

 俺は戦闘用の奴隷を広場に集めた。


 このままでも十分強いかもしれないが、彼らをさらに鍛えることにしよう。

 そして、魔王軍の立派な戦力とするのだ。


「よし、お前たちはこれからこのデュラハン、ギルドの部隊に入れ!」


 俺がそういうと、奴隷たちはざわざわしはじめた。

 まあ、魔族のもとで戦うのは、抵抗感があるのだろうな。


「ギルド、あとは任せたぞ。この奴隷たちを鍛え上げてくれ」

「はい、魔王様」


 戦闘奴隷の部隊と、このイクィシェントの街は、あとはギルドに任せるとしよう。

 そして俺は、次なる街を征服しにいこう。



 ◇



【サイド:ギルド】



 私は魔王様から、戦闘奴隷たちを部隊に加えるように指示された。

 私は指示どおり、戦闘奴隷たちを集め、話をする。


「よしお前たち、今日からおまえたちは私の部隊だ。私に従え、文句はゆるさんぞ! 返事は!」

「は、はい……!」


 奴隷たちに返事をさせる。

 いくら奴隷とはいえ、私の部隊に入ったからには、私の部下として扱う。

 私の部隊は家族のようなものだった。

 彼らは平等に扱う。


「お前たちの給料は歩合制だ。戦場であげた手柄のぶん、金が支払われる」

「ちょ、ちょっと待ってください……!? 俺たち奴隷にも金がもらえるんですか……!?」

「当然だ。私の部隊に入ったのだから、部隊の他の連中と同じ条件で働いてもらう」

「そ、そうなんですか……」


 どうやら奴隷たちは金がもらえることに驚いているようすだった。

 奴隷とはいえ、私の部隊の大切な家族なのだから、当たり前のことなのに、なにを驚いているのやら。

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