第48話
十一月だ。俺達は忙しい。
先月試合で負けたばかりだというのに、今月は新人戦の支部予選リーグがある。ベストエイトに残れなかった俺達はその予選で勝たなければならない。
今回の新人戦は二年生も出る事になった。例年通りだと一年のみの出場となるのだが、俺達一年の人数はギリギリ七人に満たない。俺達は決勝トーナメントで勝つ事に夢中になって、部員集めを忘れていたのである。助っ人を呼ぶ手もあったのであるが「そうなるくらいなら俺達が出る」と先輩達が言ってくれた。
だからもう少しだけ先輩達と、サッカーを続けられる。
そんな十一月、最初の夢。
明るい部屋だ。
決して広いとは言えないが、それでもテレビ、ソファ、ダイニングテーブル、キッチンと俺の自宅と同じ様にリビングの条件を満たしている。
ガチャリ。
ドアの開く音が聞こえ、誰かが入って来た。
「——ホント馬鹿だよなー?」
男だ。誰かと通話しながらソファに座る。
「——あ? 大丈夫だって。あんな奴ら、人の見えないとこでしかイキれないんだから」
男はごろん、と横になった。
「——もしかして、俺の成功を妬んでる? あはは、世の中馬鹿ばっかりだからな。とにかく、明日は忙しいんだ。もう切るぜ?」
『分岐です。彼は次の日家を出ますか? それとも予定を中止しますか?』
ヒントは少ないが選択が具体的なパターンだ。
このタイプは難しくない分岐である事が多い。これもそうだ。
家を出るか、予定を中止するか、どちらが危険かは明らかだ。
それでも少しだけ考えよう。
次の日、こいつは何をするのか。
こいつは「俺の成功を妬む」とか言っていた。それにまつわる何かをするのだろう。人が多く集まりそうだ。「人の見えない所でしかイキれない」という事は、人から見える何処かで何かをするのだろう。その内容は気になるが、ワザワザ危険の伴う場所に行かせる事もないだろう。
俺は「予定を中止する」を選んだ。
男は、助かった——。
日にちが経った。
色々な夢を観た。
事故、殺人、自殺、決断。
本当に様々だ。
共通するのは夢の主は誰も「自分の分岐」に気づいていない事である。
「死」なんて想像もできない状況で、唐突な選択が待っている。想像できる様な場合でも、皆んなそれから目を逸らす。
そして、それを決めるのは俺だ。
何故他人の選択を俺が決めるのか。今でも理不尽に思う。「助かって良かった」「殺してしまった」など、殆どの夢はそんなものだが、中には「殺した方が良かった」なんていうパターンもある。殺したくなるほど醜悪な人間は勿論だが、「死んだ方が幸せに見えるパターン」も存在する。
幸せは人それぞれだが、そういう夢ほど苦痛だ。選んだ後に、それを感じる。
「幸せそうな死」を選べた後に、それを疑う。
「不幸な生」を選んだ後に、自分を肯定したくなる。
映像を観せる、見せつけてくる、そんなこの夢のせいに、したくなる。
この夢は俺の責任だ。
しかし、既に出来上がった夢の状況は、誰の責任なのか。
そんな事を考えながら今日も俺は、夢を観る。
この夢はいつまで続くのだろう。
俺も、夢に出てくる主人公達も、皆んな、弱い————。
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