第22話 天ヶ崎舞羽とピクニック
天ヶ崎舞羽がピクニックに行きたいと言い出した。
僕が断ると、子供のように騒ぎ出した。
「なんでーーーーー!? 行こうよ! 行こうよーーーー!」
「あのなぁ……今は夏だぞ。暑いじゃないか」
「ゆうがそれ言っちゃうの!?」
今は8月の3日。夏真っ盛りの暑い暑い昼下がりである。僕はあえてクーラーをつけずに蒸され続ける苦行(阿呆極まりない)にて無為に水分と塩分および貴重な青春の1ページを浪費しているというのに、なぜ肌を焼くような紫外線が支配している外界へ好き好んで突撃しなければならないのだろうか? 得られるものと言えば、宿題を終わらせたという夏休み限定の実績のみである。
「こんな夏の悪いところばっかり接種してないでさ、一緒に外にでようよ!」
「夏の悪いところとはなんだ。心頭滅却すれば火もまた涼し。僕は修行中だ」
「それ、焼けちゃったお坊さんが言ったやつじゃん! ゆう死んじゃやだよ! 出よ? 出よ!?」
舞羽は僕の肩を掴んでガックガックと揺さぶった。その恰好はいかにも涼しそうで、全身から「ピクニックに行きたい!」という叫びが聞こえるほどに眩しい恰好だった。
天ヶ崎舞羽は青空にかかる浮雲のように柔らかそうなワンピースを着ている。その色は日輪も斯くやと思わせる白色で、もし外へ出ればそのまま陽光に溶けてしまうのではないかと見紛うほど高貴で純白のワンピースだった。手にはピクニック用のバスケット。頭にはすでに麦わら帽子をかぶっている。バスケットからはおいしそうな匂いが漂っており、彼女は夏を満喫する気まんまんであった。
「ねーえー、ゆうとピクニックに行きたいの。そんなに遠い場所じゃないんだよ? ほら、そこの山にね、開けた広場があってね、とってもいい眺めなんだって!」
「へえ……そう」
夏休みに入ってからというもの、舞羽が一段とアクティブになっているような気がする。まるで太陽の光が力を与えているかのごとく
「うんうん! ね、勉強ばかりしてないで、一緒にピクニックしよっ?」
「そっか」
「うん!」
「…………………………」
「…………………………」
僕は本に目を落として、ページを
「ゆ~~~~~~う~~~~~~~~!」
妖精は僕の背中をぽこぽこ叩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます