第5話 ベルルンガの休日

 昨日は間違ってダブルベッドにしてしまった。

 ダブルってベッド二つって意味じゃなかったんだよね。

 倍の大きさのベッドが一つだった。


 一人旅だったし、前は両親がいたのでよく知らなかったのだ。


「ベッド一つですね。大きいけど」

「そ、そうだね。ごめん。間違えちゃった」

「いえ、いいですよ。あたし、全然」

「そう?」

「ほら、枕は二つあります」


 ということでちょっと顔を赤くして一つのベッドで眠った。

 同じ布団の中に女の子がいるのが少し不思議な感じがした。

 枕は二つ用意されていたけど、自分は専用のフカフカ枕でないと眠れないので交換した。


「おやすみなさい」

「おやすみ」


 そして朝。


「ふふ、ラミルさん、もう十一時ですよ」

「そっか、ううん」


 惰眠をむさぼってしまった。

 休日だと思うと私はベッドから動かないタイプだ。

 普段、外で活動しまくっているのとは対照的だった。

 これは反動かもしれない。


「あたし、一人で朝ご飯食べちゃいました」

「ご飯か」

「そうですよ」


 もぞもぞとベッドから這い出る。

 広いベッドはなんだか両手を広げても余裕で、とても気持ちが良かった。

 荷台で寝るのも悪くはないけれど、ここまで広くはない。


 なんといっても、ここは貴族用の部屋なのだ。

 これでも私は男爵令嬢。こういう部屋に泊まれる身分がある。

 稀にしかお貴族様なんてこないので、普段は一般市民にも開放しているそうだ。

 料金は下の部屋に比べると、三倍くらい高い。


 大丈夫。それくらいのお金はある。

 それにこの部屋は人数ではなく部屋単位で利用料がかかるので、二人で使うなら半分だと考えることもできる。

 つまり、普通の小さい部屋の狭いベッドの一・五倍くらいということだ。


「おはよう……」

「昨日の朝は別に普通でしたよね」

「うん。朝が弱いわけじゃなくて、休日スイッチというか」

「なるほどです?」


 とまあやっと起き出す。


 一階に降りて、暇そうなマスターからミルクを一杯貰った。

 朝ご飯の代わりだから宿代に含まれる。

 サービスだと思うと余計美味しい。


「ぷはぁ」

「おじさんみたいです」

「あはは」


 泡を擦る仕草をして見せる。


「もうっ、あはははは」


 モーレアちゃんもツボにはまったようで笑ってくれた。

 うむ、笑いのセンスが似ているのかもしれない。

 なかなか楽しくできそうだった。


 たまにいるよね、笑いのセンスが合わなくてしらけちゃう人。

 そういう時、非常に気まずいのだ。うん、あれは辛い。


 さて外をお散歩しますかね。

 とっても小さい村だ。五分くらいで一周してしまいそう。

 辺境の農村までいくと畑の間に点々と家があり、全部の家を回るのに一時間かかるみたいな場所もある。

 一方、こういう森など魔物が多い地方では、家は木の柵の内側に密集して住んでいる。

 村は村でも景色がそれぞれ異なっていて興味深い。


「わんこ、だよ。わんこ」

「イヌですね」

「うん。わんこ」


 茶色いレトリーバーだ。

 犬の品種はいくつかある。なかでもウルフに似た容姿のイヌが地方の番犬としては流行っている。


 ●イヌ/レトリーバー

 ウルフに似た中型の魔獣。愛玩用ペットとして親しまれる。

 愛玩用としてはネコと同程度によく飼われている。

 四足歩行で大きな前に出ているよく利く鼻、大きなピンと立つ耳、ふわふわの尻尾などが特徴。

 特に犬歯が発達している。

 元々は肉食だけど、ペットフードという専用の餌があるので、それを食べさせることも多い。

 訓練すればそれなりに言うことを聞く。

 知能は高いほうだが、意思疎通とまではいかない。言語理解はしていないようだ。

 毎日散歩をさせるとよいとされる。


 普通なら首輪をしてリードで固定するのが都会なのだけど、田舎村では首輪はしているんだけど、放し飼いだったりする。

 村の中を徘徊しているけど、誰も気にしていない。

 長閑なものだ。

 別に村は狭いので、どっかいってしまったりもしない。

 村丸ごと警備対象みたいなものだ。


「ほーれよしよし」


 ワウウーン。


 頭をなでてやると、うれしそうに尻尾を振った。

 私たちは村の住人ではないが、不審者とは思われなかったようだ。

 なかなか賢いようで、好感が持てる。


 部外者が勝手に餌をやるのは、場合によってはマナー違反なので、干し肉をやろうと思ったけどやめておこう。


「じゃあね」


 ワンワン。


 さてと、そんな犬を遠巻きに眺めているのんびりやさんもいた。

 道の隅の日向に座り込んで、寝てる体勢から顔だけ起こしてこちらを見ている。


「ネコちゃん!」

「うむ」


 ●ネコ/トラ猫

 小さめの中型の魔獣。愛玩用ペットとして親しまれる。

 愛玩用としてはイヌと同程度によく飼われている。

 四足歩行で丸顔が特徴。ヒゲがかわいらしい。尻尾は細長くて、ふりふりしている。

 ネコも犬歯が発達しているが、犬よりは細長い感じだ。

 元々は肉食だけど、ペットフードという専用の餌があるので、それを食べさせることも多い。

 イヌと違い訓練できずいうことをほとんど聞かない。

 トイレの躾くらいはできるものの、基本的に自由気ままだ。

 その自由さが人気だったりする。

 知能は高いほうだが、意思疎通とまではいかない。言語理解はしていないようだ。

 勝手に行動するので散歩は不要だ。

 家のネズミなど小型の害獣を退治してくれるなど、有用性もある。

 なによりかわいい。


 猫を触って宿に戻った。


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