第4話 街道の町ベルルンガ

 朝になりまた馬車を走らせる。

 そして昼を過ぎて少し、ベルルンガ町に到着した。


「ベルルンガ町ですね」

「そうね」


 田舎街道にある小さな町だ。

 この辺りはそれほど通る馬車も多くない。

 唯一店を構えている商店に寄っていく。

 あとは宿屋が一軒。町の人が利用する雑貨屋が一軒。

 酒場が一軒。それから町長の家。

 残りは民家という感じ。


 どこも田舎ならこんな感じだろうか。


 城壁はなく土塁の上に木の柵が並んでいる。

 門も木製だけれど、これは戦争をすることは考えていないから別にいいのだろう。

 戦争だったら木製だと火をつけられてしまう。

 近場のモンスターさえ寄せ付けなければそれでいいのだと考えられる。

 石は木よりずっと高価だし、加工も難しい。

 貧乏な町で石壁なんて無理だ。


「すみません。なにか欲しい物とかありますか? なんでも言ってください。あるとは限らないんですけど」

「そうだねぇ。そう言われてもいきなりは思いつかないかな」

「そうですか」

「とりあえずはポーションを五本くらいありますか?」

「はい、自家製の低級ポーションでよければ」

「あぁ、ありがたや、ありがたや」


 私の低級ポーションが売れた。

 ポーションは消耗品だけれど、小さな村や町では作れる人も少ない。

 流通はあるものの、田舎では品薄になりやすかった。

 数をさばけないと利益が少ないので持ってきてくれる商人があまりいないという事情もあった。

 そこでどこの町村でもだいたいポーションは有難がられる。


「そうだなぁ、家具とかあるかい?」

「家具ありますよ!」


 私は大ダンス、小ダンス、テーブル、ミニテーブル、サイドテーブル、椅子、鏡台、鏡各種、と色々出して見せた。


「そうだな、全部一個ずつ、椅子は二脚、買っていいかい?」

「はい、もちろんです。ありがとうございます」


 今回出したのは飾りのないシンプルなデザインの木製のものだ。

 他にも竹を編んだもの、オーク材、マンイーター材などの高級家具もあるけど、たぶんここでは需要はないだろう。

 鏡も各種、一個ずつ売れたので万々歳だ。


「近々、何組か結婚式の予定があるみたいでね」

「なるほど、それで」

「うん。新しい家に引っ越すなら、家具がいるだろう?」

「そうですね。おめでとうございます」

「家が増えるのはいいことだね。実際には空き家が減るんだけど」

「空き家問題ですね」

「そうだよ。よく知ってるね」

「まあ色々と見てきたので」

「そうかいそうかい」


 空き家問題とは、生活水準が一定まで上がった後、文明は停滞期に入っていた。

 それで一時期よりも人口が減っていたため、空き家が目立つようになっていたそうだ。

 最近また人口は緩やかな増加傾向ではあるのだけど、まだ空き家が地方では目立っているのだった。

 人が住まない家は痛みやすい。

 そうしてメンテナンスされない空き家が社会問題になっていた。

 そのため、次男坊とかは結婚すると空き家を借りて住む人が多いそうな。


「さて宿屋です」

「うん、いってみよう。晩ご飯楽しみ」

「もう、食いしん坊なんですから」

「えへへ」


 宿屋に向かう。

 馬車を裏手に預けて、バルカンを休ませる。

 自分たちも今日は自炊をしないで、宿の一階で食べることにした。


 宿屋と言えば一階が酒場、二階と三階が宿泊所だ。

 宿の受付カウンターもだいたい一階にある。というか食堂のマスターが一人で兼任してる。

 二階より三階のほうが高級な部屋が多い。

 これは上の階の足音が響きやすいので、三階のほうが静かで快適だからだそうだ。

 逆に集合住宅に住むなら水場や登り降りの大変さから低階層のほうがありがたがられる。


「ということで三階の角部屋。ダブルベッドで」

「はいよ」


 鍵を貰う。しかし部屋へは行かず先に夕ご飯にしよう。


「何食べよっか」

「そうですね」


 メニューは壁に貼ってある紙に書かれていた。

 そうだな。


「トマトパスタ」

「じゃあ私もそれにします」


 この町ではトマトが採れるようで、トマトパスタが名産品のようだ。

 ただし収穫量は多くないらしく、この一品しかない。


 酸味と旨味のあるトマトソースがよくパスタ麺に絡む。


「美味しいですね」

「うまうま」


 ふたりして必死になってトマトパスタを頬張った。


「それからミルク! あとチーズね」

「はいよ」


 新鮮なミルクは濃くてとても美味しい。

 それから塩を効かせたチーズ。素朴な味だけれど、これがたまらない。

 どうやら酪農家が町にいるらしかった。

 ここより小さな町村ではミルクやチーズはないところも多い。


 森の中の田舎町と侮っていたけれど、思っていたより美味しいものが食べられてとってもうれしかった。


「よし決めた。明日は馬の休暇日にしたいんだけどいいかなぁ? 王都まで余分に一日かかるけど」

「大丈夫です。わかりました。トマトパスタ美味しかったですもんね」

「うん」


 ということでここにもう一泊することに決めた。

 バルカンも長いこと毎日走ってきた。

 あまり連日走らせると体調を崩すこともある。

 両親から馬車ごと受け継いだ大事な黒馬だ。

 という言い訳を考えつつ、トマトパスタとミルクが美味しかったから。

 何もしない日というがあっても別にいいだろう。


 私もモーレアちゃんも急ぐ旅ではないらしい。

 そもそもモーレアちゃんの予定はよく知らないけれど。


 私は放浪旅だ。目的はあってないようなもの。

 今は東の果てに向かっているけれど、別に急ぎではない。


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