第3話 夜の帳(とばり)

 お昼を食べた後を片付けて、再び森の間にある街道を進む。

 次の町までは翌日の昼ごろ到着予定だ。


「ということで今晩はスポットで野営だね」

「はい。行きもそうでしたし」

「だよね。それにしてもなんでフォーリン村なんて」

「あの、村の先にある滝を見たくて」

「あぁぁエンジェル・フォールだっけ、見たことある」

「綺麗ですよね」

「うん、とっても綺麗。特に光が降り注ぐところ」

「です、です」


 今日、朝に出発した村がフォーリン村だ。

 それでもって人がいない景勝地であるエンジェル・フォールという滝がある。

 村から滝まで往復すると一日はかかるので日帰りは無理だった。

 滝の左右には巨木が迫っていて、真ん中の滝の部分は上から光が降り注いでいた。

 滝はかなりの高さを誇っている。

 ただし水量が少なくて、キラキラ舞い落ちるかのようになっていた。


 あの滝の周辺には、エンジェル・ラブつまり『天使の恋』といわれる薬草が生える。

 私はそれの取引が目的で寄って、二十株ほど確保してきた。

 過去にも何回か寄ったことがあるので、顔は覚えられていた。

 前はまだ両親と一緒だったので、今よりも小さいころだと思う。


 私は金髪のウェーブヘアで、特に黄色が強い。

 この色は特徴的でかなり珍しい。普通の金髪はもう少し薄い。

 だから私を見た人の多くが、記憶に残るのだろう。

 商売としては覚えてもらえるのはうれしいので、とても助かっている。


 ギギギ。


 前方に通せんぼをしているゴブリンが一匹いる。


「直進」


 私は手綱を振って直進を指示する。


 ヒヒーン。


 バルカンはいななきを上げる。

 そのまま突き進んでいく。

 ゴブリンはまさか止まらないと思っていなかったようで、黒馬の足に蹴られて道端に倒れている。

 後ろを振り返って再確認をするが、問題はなさそうだ。


「大丈夫ですか?」

「へいき。まあゴブリンの一匹くらい、無視よ」

「そうですか。流石です」


 うん。ゴブリン程度、うちのバルカンのほうが強い。


 ●ダークホース

 バルカンの種類は普通の馬とは少し異なる。

 ダークホース種と言われる種類で、大型の馬だ。

 馬力、戦闘力、体力などあらゆる面で普通の馬を凌駕する。

 南東の砂漠地帯の手前にある山岳地方に生息している。

 ただし絶対数が少なく気性も荒いため、この馬を飼いならすのは至難の業だ。

 遊牧民族の一部では飼いならす伝統技術があり、小数ではあるが流通がある。

 特に軍馬としても重宝されるため、主要国のあるメールドでの市場価格は非常に高価になる。


 本にするなら地理の説明も考えておかないといけないかもしれない。

 まずコスタール大陸がある。この大陸以外はあまり知られていない。

 私も活動しているのはコスタール大陸の中のみとなる。

 この大陸の北西に位置するのがメールドで、先進主要国が集まっている地域だ。

 メールドの山々はそれほど高くなく行き来が容易だった。

 緑が豊富で定期的に雨も降る温暖な地域となっている。

 メールドの東の果てに険しい山岳地方バルリド地方があって、その先に砂漠ベドウィン地方があった。

 こちらの方へは私はまだ行ったことがないので、一度バルカンの故郷を拝んでみたい。

 砂漠にも興味がある。オアシスとか憧れちゃう。


「さて夜だね」

「うん」


 夜ご飯を適当に麦粥に黒パンを浸して食べる。

 黒パンは持ち込みだ。

 非常用としてかなりの数がマジックバッグに放り込まれている。

 マジックバッグ内であれば、時間経過で硬くなることはあっても、カビたりはしない。


「それじゃあ寝ようか」

「はーい」


 二人で馬車の荷台へ移動する。

 中で魔道ランプをつける。中は閉めるとほとんど真っ暗なので。

 後ろの扉を閉める。これは観音開きになっていて、普段は外側まで開いて固定してある。

 荷台は箱馬車の木製で、バーベリ板という軽くて頑丈という特殊な魔物の木を使ってある。

 かなり高価だ。

 この馬車は両親が使っていたものをそのまま受け継いだものだった。

 バーベリ板であればゴブリン程度なら問題ない。

 クマでも傷ができる程度だろう。

 箱馬車は重いので、普通の馬なら二頭引きにするところを、バルカンは一頭で引いてみせる。

 普通の箱馬車だと板材の重量も強度を保つレベルにするとかなり重い。

 バーベリ板と黒馬の組み合わせでようやく余裕を持って一頭引きにできるのだった。


 偽装用に積んでいる麦袋をマジックバッグに放り込んでスペースを作った。

 そしてマットと布団、それから枕を取り出す。

 ふかふかの枕は私のお気に入りで、これがないと眠れないので必須だ。


 二人で布団を並べる。

 以前は両親と三人で並んで寝ていた。


「えへへ、お隣ですね。行きより快適です」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみなさい。ラミルさん」


 布団に入ると、隣のモーレアちゃんの顔が見える。

 かなり可愛らしい。

 王都エントリアから来たらしいけれど、かなりモテるのではないだろうか。

 モーレアちゃんは目を閉じて、浅く息をしていた。

 同年代だろう。若い女の子とこうして一緒に寝ることはなかったので、なんだか興味深い。

 もう寝てしまったかな。

 王都まで送り届けることになっているけど、どうなることやら。

 話も楽しいし、いい刺激になりそうだ。


 うちの馬車の布団は高級ホテル並みの品質なので、ぐっすり眠れるだろう。

 快眠は生活の基盤だ。

 魔道ランプを消した。

 さて、私も寝よう。おやすみなさい。


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