第6話 エントラ東西街道を東へ

 宿ではまたトマトパスタを食べて、私たちはご満悦だった。

 そして二人でキングサイズのベッドに仲良く寝る。


 朝になって今日は朝ご飯。

 麦粥とそれから野菜たっぷりスープをいただいた。


「では行ってきます」

「いってらっしゃい。またおいで」


 宿屋のマスターに見送られて馬車を進める。

 本日もバルカンはやる気十分だった。

 昨日は休日だったので、たっぷり休んだようだ。

 かえって運動していない分、不満だったのかもしれない。


「はいよー」


 馬車が進んでいき、木の門を抜ける。

 今日はなんだかバルカンが気持ち速い。

 春の陽気でぽかぽかして気持ちがいい。

 パカパカとリズムよく馬蹄の音が聞こえる。

 だいぶ森を進んでいく。


 夕方近く、木製の橋を渡る。

 いい領主はしっかりと橋を整備する。

 馬車は川をそのまま渡るのが困難なので橋は生命線だ。

 街道整備にはお金がかかるが、そのぶん見返りも大きい。

 軍事的に見ても、ウマを飛ばせる街道は敵の進行をいち早く知らせることができる。

 もっともハーピー便とか使えるならそれに越したことはない。

 ただ津々浦々ハーピーを配備することは現実的ではない。

 魔物だしテイムが必要だからだ。

 基本的に専用のテイマー職の人がいるので、それほど数は多くない。


 橋を渡るとそこから先は草原だった。

 ずっと草原。見渡す限り。

 空が広い。青空が大きく見えて、すがすがしい。


「いい景色ですね」

「そうだねぇ」


 行きにも見たはずのモーレアちゃんだけど、ちゃんと私に合わせてくれる。

 例えば「もう見ました」とかつれないことは言わないようだった。


「ホーンラビットの群れですね」

「ほーん」


 ●ホーンラビット

 一角ウサギ。小型の魔獣。性格は基本的には臆病で温和。

 体毛があり、毛皮はファーに加工される。茶色、黒、白の体毛がある。

 四足歩行で耳が大きく長い。おでこに角が生えている。

 目はルビーのように赤い。

 草原や浅い森などを好み、群れ単位で生活をする。

 危険だと思うとこの角を向けて突進してくる習性がある。

 角からのダメージは大きくないがそこそこ痛いので、初心者は注意をするように。

 肉は食用にされる。唐揚げやシチューにするとおいしい。


 どこにでもいる、いわゆる低レベル帯の魔物だ。

 怖いことはないが、かわいい顔をしていて、ペットにしようとする人がいる。

 しかし基本的に人には懐かないので、テイマーなどの職業でないと難しい。

 それでもときより町でも檻に入れられて生け捕りにされた個体を目にすることもある。


「唐揚げ食べたくなってきちゃった」

「ラミルさんはラビット派です? それともニワトリ派?」

「唐揚げならニワトリ派だなぁ」

「なるほどですぅ」


 唐揚げにはこのホーンラビット派とニワトリ派がいるのだ。

 私は断固ニワトリ派だったりする。

 肉質は似ているものの、少しラビットのほうがワイルドな感じがする。

 ニワトリのほうが柔らかめだろうか。

 肉々しい感じなのが好みならラビット派だろう。


「見て空。ハーピーちゃん」

「おお、お仕事かな」

「そうですね」


 ハーピーが単独で飛んでいる。

 それほど高くはない。地面スレスレではないものの低空飛行を続けている。

 白い個体だ。

 周りにはハトも三羽ほど一緒になって飛んでいる。

 高いところも飛べる能力はあるのだけど、それをするとすごく目立つ。

 空で目立つとは、ワイバーンなどの猛獣がいる世界では命取りなのだった。

 もちろんドラゴンやガーゴイルも怖い。


 ●ハーピー

 中型の魔獣。魔鳥。

 人型ではあるものの、手は翼、足は鳥の足だ。

 顔と胴体は人間に似ていて、基本的にメスなので胸があった。

 卵生で卵を産む。雑食性だ。

 鳴き声がしわがれ声なのも特徴だ。

 白、茶色、黒などの体毛がある。白系の場合はピンク色をしていることも。

 もちろん空を飛ぶ。伝令などに使われるためにテイムされる。

 野生種では集団で木の上に巣を作って生活している。

 鳥としてみるとそこそこの大型種だと思われる。


「私も翼が生えてて、空を飛べたらな」

「そうしたら地の果てまで飛んで行ってしまいそうです」

「そうだね。陸地が続いている限り、ずっと飛んじゃうかも」

「ですよねぇ」

「うんうん」


 だいぶ陽が後ろ側へ傾いてきた。

 私たちは東に向かっているので、太陽とは反対方向だった。

 ちなみにここは北半球だ。

 科学アカデミーいわく、地球は丸いんだそうだ。

 反対側に住んでいる人はひっくり返ってしまわないのだろうか。不思議だ。


「今度はワイルドボアです、ラミルさん」

「お、おう。色々出てくるね。こっちくるなよ」

「あはは。そう願いますね」


 ●ワイルドボア

 大イノシシ。大型の魔獣。

 森や草原に住む。ブタの近縁種だ。

 口からは大きな牙が生えている。

 鼻が平らで大きいのが特徴だ。

 体はずんぐりとしていて大きい。

 突進してくることがあり注意を要する。

 体毛は茶色。小さい頃はウリボウといって白と黒と茶色のシマシマ模様だったりする。

 肉は食べ応えがある。ステーキ、チャーシューや焼豚にするとうまい。

 肉には少し臭みがあり、いかに臭いを落とすかが解体や料理担当の腕の見せ所だ。

 牙は硬くさまざまな装飾品などに加工される。

 皮も硬くごわごわしているものの、一部製品には使われることもある。


 ボアの肉は食べ応えがある。

 トロトロになるまでシチューに煮込むと美味しいらしい。

 巨体なのでみんなで分けてもそこそこ食べられるから、農村では出没すると有難がられる。


 そんな草原をひたすらに進んでいく。

 ここはエントラ東西街道。

 このまま進めば、農村マルード村を通り、マルンバ町、その先に王都エントリアがある。


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