第22話

クゼとの電話を切っても、私は依頼が偽の依頼なのでは、との疑念を拭えなかった。


電話口でバタバタしていたこともあり、後から気づいたが、クゼには自宅の住所や銀行口座などの個人情報を全く伝えていない。もっとも、こちらの電話番号を知らぬ間に調べ上げたぐらいだから、向こうでなんとかするのかもしれないが。


この予想は当たった。


翌日、私は銀行からの電話を受けた。


「この度は、大変な金額をお預け頂きまして、有難うございます。今後の運用方針などはお決まりでしょうか?」


日本への帰国時に、口座を開設した銀行からだった。一度も会ったことのない担当者が挨拶のために、ぜひ我が家を訪問したい、とのことだった。


「失礼ですが、何か勘違いをされていませんか?」


「いえいえ、間違いではございません。昨日付で1,000万円のご入金がございました。口座開設の際に、以前米国で勤務されていたと仰っておりましたが、察するにそちらの退職金でしょうか?」


私は適当にお茶を濁し、訪問を断った。半ば夢見心地で、近所の銀行の支店に駆け付ける。はやる気持ちを押さえつけるに苦労した。


銀行に着くなり、ATMコーナーに飛び込んだ。記帳をすると、そこには確かに「残高11,332,000円」との数字が並んでいた。


確認すると、昨日、「クゼ・インターナショナル」という名義から、一千万円の入金がなされている。驚いたことに、依頼は本物だったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る