第10話 噂話なんて
まだ入学してから数日しか経ってないが。
この教室は異様な空気に包まれている。いや、包まれているのは俺の周りだけ。
俺は何もしてない。それもこれも全部、入学式のとき変なことを口走った優々のせいだ。
変な噂話が生まれる瞬間は間違ってなったらしい。
内容は知らないけど、小声で話しながら度々目を向けてくる男女の視線は熱い。
全く。まだ前の席の人に「このプリントっていつまでに出せばいいんだっけ?」って、声をかけれた段階なのに。
これから友達ができる予定なのに。
間違いは俺からビシッと言わないとな。
「くんくん。くんくん。ここら辺から寂しくて泣きそうな匂いを感じる」
何も知らない顔をしてる優々がこうして俺の席の横に来るのは、早くも朝のホームルームが始まる前のルーティーンになりつつある。
家じゃ煽ってこないのに。学校じゃ大違いだ。
「どうやって慰めてもらうんだ……」
「抱きつくんじゃないかしら」
至るところから変なことが聞こえてくる。
うん。こんなの俺じゃどうしようもないわ。
「? どうしたの理央くん。あっ、もしかして今日朝ご飯に私が作った目玉焼き、最終的に黄身が混ざってスクランブルエッグみたいになったのまだ気にしてるの?」
「んなこと気にしてないし。……それより、実のところ優々は気づいてんの?」
「なにに?」
あぁ。何も知らない演技をするような器用なことをするはずがないのに、変な質問をしてしまった。
「ちょっと。なんか今、すごいバカにした顔してたんだけど」
「気のせい気のせい。なんのことを言ってるのかというと……」
俺たちは噂話をされている。
その原因を作ったのは優々なんだぞ、と事細かく言い終えると。
「ほほぉ〜」
優々から帰ってきたのは、申し訳無さそうなものではなく。どこか嬉しそうな声だった。
「いやなにもしてないよ?」
なにかしたのか、なんて聞いてないけど。
「やましいことがある、と」
「ないないない。ないってないってないって」
首を横にブンブン振って無実を主張してきてる。
が、これは嘘だ。
優々が嘘をつく時の癖として、声が裏返って同じことを何度も言う。長い間一緒にいるからこそ、多分本人も知らないであろう癖も知ってる。
「………………」
「ごめんなさい」
目力で押し込むと。優々はすぐ折れた。
「わ、悪気はなかったんだよ? 仲良くなった女子たちに、ちょっと。ちょぉ〜っと理央くんとは幼馴染で特別仲が良いってことを言っただけで……」
なんてことを言ってくれたんだよぉおおおお。
でも涙ぐんだ瞳で上目遣いをされたら、責められない。
「まぁわかったけど。頼むからこれからはそういうのなしで」
「それはどうかな」
「いやそこは納得してよ!」
そんなこんなで話は終わったのだが。
俺たちの会話を盗み聞きしていた、噂話を鵜呑みにしている人たちはというと。
「大ニュースだ……。二人がそういう関係だったのは本当だったのか」
「女の子のことを泣かせる寸前まで追い込むなんて、あの男はどんなことを言ったのかしら。なんにせよ、鬼畜には変わらないわ」
なんか楽しそうだ。
前以上に変な噂話が広まりそうだが。この様子の人たちに俺が何を言っても、無駄だろう。
その人たちに一番近い距離にいるのは優々だ。
もしなにかあっても、なんとかしてくれることを祈るしかない。
俺はそういうことにして、噂話をしてた人たちに囲まれる優々横目にそっと目を閉じた。
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