第9話 買い物デート

「じゃあ寺ちゃん。また明日ぁ〜」


「明日ぁ〜」


 優々の下駄箱の前で待ち始め約20分。

 すれ違う人に不審な目を向けられ。今までにないほどの精神攻撃を受けていたが。

 ようやく解き放たれた。


「もぉ。帰ってていいって言ったのに」


 隣を歩く優々は申し訳無さそうに顔を向けてきた。


「別にただちょっと、まだ帰りたくなかっただけだし」


「あっ。もしかして高校生活初日にも関わらず、誰とも喋れず友達ができなくて寂しくなったとか?」


「……まだまだチャンスはいくらでもあるから。あと寂しくなんてないし」


「まぁ理央くんに友達ができたとしても、私からは離れられないからね。……もし寂しくなったらいつでも癒やしてあげるよ」


 よくそんな恥ずかしいことを顔色1つ変えず言えるな……。


「はいはい。その時が来たら癒やされまぁーす」


「へへっ。恥ずかしがり屋さんなんだからぁ〜」


 このこのぉ〜と、言いながら優々は俺の脇腹をつついてきた。

 

 全く。棒読みで適当に返したのに。

 冗談なのがわかってるはずなのに、なんでそんなニヤニヤしてるんだか。


「実は私、そんな恥ずかしがり屋さんについてきてもらいたいところあるんだよね」


「恥ずかしがり屋じゃないし。……はぁ。どこついてきてもらいたいの?」

 

「今日のお昼ごはん用の食材の買い出しぃ〜」


「え。夜ご飯担当だったじゃん」


「ふっふっふっ。私、前から料理動画を見続けてるから多分上手くなったと思うの。だから任せてっ!」

 

 自信満々に言ってきてるが。 

 「料理動画を見続けているから多分うまくなったと思う」なんて言葉言われたら、一切任せられない。

 どうせ上手ぶったせいでゲテモノができる落ちだ。


「もし優々がお昼ご飯作ったら不公平になって、当番を決めた必要がなくなるし。今日のところは、一緒に作るか」


「お、おぉー。いいねそれ。共同作業ってやつだ!」


 優々はグッと勢いよく親指を立て、俺の提案をすんなり受け入れてくれた。


 一緒に空いてるスーパーへ行き。


「麻婆豆腐食べたい」


 優々の言葉により、今日の昼ご飯は麻婆豆腐に決まった。


 普段料理で使う食材の買い物は俺一人で来てるため。隣に優々がいるというのは新鮮で、少し楽しい。

 そのせいで、次々にカゴへ入れられてくものに気づくのが遅れた。


「なにこれ」


 野菜。肉。魚。レトルト食品。冷凍食品。お菓子。

 ほとんどが麻婆豆腐を作るのに必要のないもの。


 これらをカゴに入れた張本人は、なぜか隣でやりきった顔をしてる。

 

「もう一回聞くんだけど、なにこれ?」


「ん? 食べ物」


「俺たち、昼ご飯は麻婆豆腐を作って食べるんだったよね?」


「そうだけど……どしたの急に。カゴに入れたやつは今後私が使うかもしれないものだから、ついでにね? そのお金分は今度埋め合わさするからいいでしょ〜?」


「お金は親から渡されてるからいいんだけど……」


 カゴの中にはまだ捌いてない魚もある。

 優々、これからシェフの道にでもいくつもりなのか?


「じゃあお会計に行こぉー!」


「まだ麻婆豆腐を作るための食材、全部揃ってないから待って」


「さーいえっさー」


 その後家に帰り、優々が暴走することなく美味しい麻婆豆腐を作れたが。


 案の定、夜ご飯として食卓に出されたのは丸焦げになった焼き魚だった。

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