『キス』もいい?

 アタシは隣でスヤスヤと眠る、アタシよりも小柄で歳上な一つ上の旭川おねーさんを眺める。

 彼女はアタシに心から寄り添ってくれる、たった一人の''大切''だ。


 そんな旭川おねーさんは、時々見てて危うい。

 随分とまぁ、アタシよりも歳上とは思えないほどに無知で純粋。

 アタシと真反対で汚れを知らなすぎる。


 普通の人は、出会ったばかりの何も持たない子どもに同棲を申し出るとか、そんなことは絶対にしないはずだ。

 いや、たしかに嬉しかったけれど。今もこうして、なんだかんだ言っても甘えさせてもらっているけれど。


 それでもアタシは、時々彼女の、この軽さが無性に危険に思えてくる。

 誰かが傍で見守っていないと、悪い大人たちに搾取されるだけされて、汚い世界に身を投じそうで怖い。


「起きてー、起きてよ旭川おねーさん!」

「んむぅ…………」


 旭川おねーさんの肩を揺さぶる。

 ここに住まわせてもらって、あっという間の一週間だった。

 幾つもある気づいたことの、その一つが旭川おねーさんは朝がとても弱いということ。


 起こそうとすると、眉根を寄せてまるで幼子みたい。

 彼女は寝ぼけながら自身のスマホを確認した。


「…………まだ6時じゃないですかぁ。休みの日くらいゆっくり寝させてくださいぃ」


 旭川おねーさんが甘えたな声で言う。

 ゴロゴロと。まるで猫のようだ。


「話が違うよ!旭川おねーさん!今日は朝からアタシの言うこと何でも聞いてくれる約束だったじゃん!!」


 彼女がまだ寝ていたいことも十分理解したうえで、アタシは尚も彼女の肩を揺する。


「……………覚えてません〜」


 この子どもみたいで、少し不機嫌になった声もとても可愛い。

 朝が弱い彼女は、しばらく頭が働かないお人気さんみたいなのだ。これまでの経験則で分かっている。


 アタシは昨夜の『間接キス』を思い出す。

 ゲームでは旭川おねーさんに勝てたけど、もう1ターンくらい続いていたら勝敗は分からなかった。



 アタシだって、初めてだったんだから。



 絆された。と言うべきなのだろうか。

 あるいは、人に優しくされたからかもしれない。

 旭川おねーさんと出会って、アタシは人間の優しい部分に『はじめて』触れた。

 色んな経験をさせてもらった。


 今も現在進行形でゴネている旭川おねーさんは、アタシとのこの関係性を、どう思っているのだろう。

 気になる。


 これは、本当にただ絆されただけ?

 胸がドキドキする。

 本当に、、、それだけ???


 アタシは彼女の唇に意識が吸い寄せられた。

 もう早くも二度寝を決めて、すーすーと寝息をたてている。

 彼女の吐息がもれる、その唇に………


 昨日の『間接キス』を意識してしまって、


「ねぇ、また寝ちゃった?」


「……………」


「返事してくれないと、イタズラしちゃうよ?」


「……………」


「ねぇ、旭川。『キス』もしていい?」


「っ、、………す、すーすー」


「………ふふふ。…………


 この感情がなんなのか。

 今すぐ答えを出す必要なんて無いと思ってる。

 まだまだ、彼女と出会ったばかりだ。


 もっともっと彼女と長い時間を過ごして、この気持ちの名前を探していけばいい。






 アタシは彼女の唇にそっと、自分の唇を重ねた。



━━━━━━━━━━━━━━━


根岸さんが旭川おねーさんをおねーちゃん都呼んだのは、少しでも出会った頃と今とで明確な心の距離を表せたら、と思ったからです。


以上、みさきです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る