最終話 やらかしたーっ!
夏休みも終盤を迎えた頃、ついに運命の日がやって来た。翔子さんがお父さんと正式に結婚し、佐野君とも家族になる日が。
今私達がいるのは、お父さんと翔子さんがこの日のために購入した新居。ここで、新しい生活が始まるんだ。
「今日から一緒に暮らすことになるけど、どうぞよろしく」
「は、はい! よろしくお願いします」
緊張しながら、佐野くんと挨拶を交わす。
「やっぱり、なんだかまだ変な感じだね。けど、少しずつ慣れていけたらいいなって思ってる」
「わ、私も、早く慣れるように頑張るから」
佐野くんの爽やかスマイルが、相変わらず心臓をうるさくさせる。
あの初顔合わせの日から今までの間、佐野君とも何度か会うようになって、今ではすっかり打仲良し…………なんてことは全然なくて、相変わらず、会うと少し緊張するし、ドキッともする。今日から兄妹なんて、まだ実感がない。
だけど初めて話したあの日よりは、ちょっとだけ打ち解けられてるとは思う。
「さあ。それじゃ、まずは引越しを終わらせようか」
お父さんが号令をかける。
今この家のリビングには、それぞれが元々住んでいた家から持ってきた荷物が置いてある。今からそれを、それぞれ自分の部屋に運んでいくんだ。
「私達の部屋、二階だったよね」
「ああ。俺が左で、北条さんが右ね」
二階には二つ並んだ部屋があるけど、そこが、私と佐野くんの部屋になる。
これからは、壁一枚を隔てた先に佐野君がいるんだから、あんまりうるさくしないように気をつけないとね。
そんなことを考えながら、私の荷物を部屋に運ぶ。
だけどその途中、ダンボールを抱えながら、階段を上っている時だった。
急いでいたせいか、箱を持っているせいでバランスが悪かったからか、不意に階段を踏む足が滑った。
「わっ!」
慌てて踏ん張ろうとするけど、もう遅い。持っていた箱は手から落ち、体が大きく揺れる。
(やばい! 落ちる!)
怖くて目をつむり、きたるべき衝撃に備える。
ところが、そうはならなかった
次に私が感じたのは、硬い床の衝撃でなく、グイと腕を引っ張られる感触。そして、包み込むような温かさだった。
「北条さん、大丈夫!?」
「う、うん──って、えぇぇぇっ!?」
気がつけば、佐野君の顔がすぐ近くにある。そこでようやく、落ちる私を佐野君が捕まえ、引き寄せてくれたんだと気づいた。
おかげで、痛い思いをしなくてすんだ。
だけど、だけどね……
(これってもしかして、佐野君に抱きしめられてる?)
多分、人に聞いたら、十人が十人、そうだよって言うと思う。
体がピッタリと密着して、顔がめちゃめちゃ近くにある。ボンッて音がするくらい顔が熱くなって、心臓がうるさいくらいドキドキする。
「あ、ありがとう……」
「う……うん。ケガしてない? どこも痛めてない?」
くっついているから、佐野くんの心臓の音もわかるけど、なんだかそっちもドキドキしている気がした。
「だ、大丈夫。そうだ。ダンボール拾わなきゃ!」
このままでいたら、いよいよ心臓が持たない。
パッと佐野くんから離れて、さっき落としたダンボール箱を見る。
階段を転げ落ちたそれは、封が甘かったのか、中身がぶちまけられていた。
「中身拾うの手伝うよ」
「いいよ、私がやるから」
助けてもらったのに、これ以上手伝ってもらっちゃ悪い。
そう思ったけど、それでも佐野君は、散らばった箱の中身に手を伸ばす。
だけど、その時になって思い出す。これは、中を見せちゃいけないやつだったってことを。
「ま、待って!」
慌てて佐野君を止めるけど、もう遅い。
佐野君は拾い上げたそれを目にしたとたん、驚いたように目を見張る。
それは、一冊の本。私の最推しの作家様、リリィさん作のラノベ、『お義兄ちゃんと、一つ屋根の下』。
私が、なんとしても隠しておきたいものだった。
それを、佐野くんに見られた。
新しい生活。新しい家族。この時私は、それらがガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。
※コンテストの文字数制限のため、今回はここまでとなります。続きはまたの機会に。
キョーダイになった彼と私の言えないヒミツ 無月兄 @tukuyomimutuki
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