第1話 もしもこんな世界だったらというワンダーこそSFの醍醐味の一つであるが、そういう意味では現代で最もSFが盛んなのは日本のエロ漫画なのかもしれない。

 話には聞いたものの、実際に街へ出て驚いた。

 本当に皆、を着ている。道行く人道行く人、皆だ。


「これがこの世界では普通なの?」


 私の着る服は遼2リョウツーくんに見繕ってもらったが、やはり体全身に何かを纏うというのは変な感じだ。


「この世界どころか、ありとあらゆる世界で全裸がフォーマルな世界ヴァースの方が珍しいです」

「そうなんだ。それよりさっきはごめんね」

「何度も謝らなくて大丈夫です。初めての世界転移ヴァーストラベルですから仕方ありません」


 私が遼2リョウツーくんに吐瀉してしまった後、彼は何も言わずにただ私の前からスッといなくなった後に、体を身ぎれいにして、どこから持ってきたのか私と彼の分との服を持ってきた。

 その服を着て、私たちは街に出て、私はただスタスタと歩いている遼2リョウツーくんの後をつけている。


「あなたも落ち着いてきたようですし、目的地までまだかかります。あなたには現状を理解してもらわないといけませんね」

「現状と言われても私は今この状況を現実だとまだ受け止め切れていないのだけど」


 正直、まだ夢の中にいるのではないかと疑っている。

 だって、礼拝堂で祈っていただけなのに急に顔なじみの男の子が姿を現して? あなたは世界を救う唯一の存在です? とか? それにあの陰毛炎炎メラメラ集団……。


「彼らは人間門松ゴールデンペラー……。多元宇宙マルチヴァースを股にかけ、世界を支配せんとしている斑模様の夢見少女アリス・イン・ザ・アスの操る人造人間アンドロイドです」

「なんて?」

「彼らの目的は正直なところ分かりません。しかし、彼らが現れた世界は突然に消え去る……ぼく居た世界もまた人間門松ゴールデンペラーによって消え去りました。けれど、斑模様の夢見少女アリス・イン・ザ・アスに対抗しようとしていた和田島博士タオ・イサキに助けられ、ぼくはぼくのような存在を増やさないために戦っているのです」


 さっきから何も入ってこないのよね。


「それで? 私たちは今どこへ向かっているの?」

のもとへ」

「この世界のイサキ?」

「ここです。ここにイサキ反応があります」

「イサキ反応?」


 遼2リョウツーくんは建物を目の前にある建物を指し示した。

 見た目はファミレスのような何の変哲もなさそうな建物だ。看板にもデ〇ーズと書いてある。

 さっきちらっと通った公園で時計を見たが、ちょうどお昼時なこともあってなのか、小さな子供の家族連れやスーツ姿のサラリーマンなどが入っていく。


「ここって……ひっ?」

 窓から中を見て思わず叫びそうになったところを、遼2リョウツーくんが口をふさいで止めた。


「落ち着きましょう。ここはあなたがいたのとは別の世界ヴァース。そこでは必ずしも常識が通用したりはしません」


 レストランのように見えたその建物の中では、ある者は二人で濃厚なキスをし、ある者はお互いの股間を弄りあっている。


「こ、こんな真昼間に……?」

 しかも子供連れで入っている人もいる。一体この世界の倫理はどうなっているのだ。


「裸がフォーマルの世界の住人に言われても……。ここまでの街の様子、見ませんでしたか? 飲食店がないんです。きっとここは食欲が恥で性欲が公に開かれているタイプの世界ヴァースです。珍しくありません」

「珍しくないの!?」

国民的漫画家すこしふしぎの提唱者が書くくらいなので」


「あなたたち、そんなところで突っ立ってないで入ったらいいんじゃない?」

 私たちに背後から誰かが語りかけた。


 私と遼2リョウツーくんはその声に咄嗟に振り向く。

 そこには青い傘をさし、ニコニコとした表情を浮かべる女がいた。



続く。



【和田島博士の解説tipsその2】

 食欲が恥で性欲が公に開かれているタイプの世界ヴァース

 誰もが知る猫型ロボットを創造したSF漫画家が書くくらいのよくある世界ヴァース人間門松ゴールデンペラーから逃げた先で渡伊咲が迷い込んだ世界はマルチヴァースDvBZ2020。

 飲食店の代わりに風俗店が立ち並ぶ。どうやら性病に対する免疫も他の世界よりも抜群に高いようである。人前で食事をすることが恥とされるが、食事をしないと生きていけないのはこの世界ヴァースの人間も例外ではないため、栄養失調等での死亡率が高い。その代わりと言ってはアレだが、出生数も多い



 

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