エロス・マルチヴァース・ワンダラー
第2話 一度書いたものがミスで消えたり、没にしたり書き直しをすると、本来書こうと思っていたのとは別の創作世界がうまれている。我々創作者はミスや没の数だけマルチヴァースをうみだしている。
第2話 一度書いたものがミスで消えたり、没にしたり書き直しをすると、本来書こうと思っていたのとは別の創作世界がうまれている。我々創作者はミスや没の数だけマルチヴァースをうみだしている。
「この
この目で見てもなお信じられないが、そういうことか。この世界は私のいる世界とは別の世界であり、この世界の私がいる。
「あなたが噂の遼くんね。
「……ッ! 既に接触されていたか!」
「ええ。
「やめなさい。私もこんなところで一戦交える気はないわ。平和的に行きましょう。さ、とりあえずお店の中へ」
私と
私たちは意を決して、店の中に入る。店の中は思ったよりも綺麗で、私の世界だったら飲食スペースがあるところで大勢の客が、私から見たら淫らな行いをしている。
席につくと、店員がメニューを運んできた。
「見ての通り、この店はファミリー向けのメニューの豊富なお店でね」
「見ての通りと言われましても……」
私は正直な感想をこぼした。そういう常識が私の中にはないので、ファミリー向けってのも意味がわからない。
「私には想像できないけど、あなたたちの世界ではこういうことをしても許されるのよね?」
彼女の手には、銀色のアルミホイルの塊がある。彼女はそのアルミホイルの一端をもって、さらに中のものを取り出した。
それはおにぎりだった。丸く握られて、海苔の巻かれたおにぎり。
隣の席で濃厚なキスをしていた一人がピタリと行為をやめる。そして近くを通る店員に声をかけた。店員は慌てた様子でこちらの席に来て、
「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので、そちらはしまっていただけますと幸いです」
「そう。仕方ないわね」
「お客様、申し訳ありませんが」
その瞬間、店の中が騒めいた。気付くと、私のいた世界で礼拝堂に入ってきたみたいに、店の中にあの裸の陰毛
「やめさせろ!」
そんな阿鼻叫喚の中で、
「私ね、美味しい牛タンをお腹いっぱいに食べたいのよね」
「でも、私の世界ではそれも困難……。だけど
「その為に罪もない人々を消すのか!」
「あなたは勘違いをしているわ、遼くん。私たちは彼らを消しているんじゃない。新世界に導く準備をしているだけ」
取り出したものを見て、
「あなたも案外不用意ね? これまで大丈夫だったからと気が緩んだのかしら? あなたも導かれなさい、新世界へ」
「駄目!」
私は咄嗟に、
「おうふ!」
殴られたような痛みが私を襲う。だが――。
「……あれ?」
他の撃たれた人間のように消えるようなことはなく、私は何もなかったかのように
「!?
「やめ──」
静止の言葉を最後まで言う前に、
「行きますよ!」
続く。
【和田島博士の解説tipsその3】
本名を
また、彼女は「あなたたちの世界ではこういうことをしても許されるのでしょう?」と言っていたが、飲食店で持ち込みのおにぎりを出すべきじゃないし、性欲と食欲が逆というなら、こっちの世界での風俗店でおもむろに手作りのおにぎりを鞄から取り出す奴はなんか嫌。どっちにしてもどこかズレている彼女であったが、
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