Opus,8
俺はゆっくりと目を開ける。
どうやら、市瀬のパシリを終えた後――疲れて眠ってしまったようだ。
開けていた窓からは、夕方に鳴く鳥の声が聞こえてくる。
どうやら、あれは餌を探している声らしい。
その割には、優雅に鳴いているが。
窓から差し込む太陽はまだ優しいオレンジ色で、少しの時間だけ仮眠していたのだとわかった。
グッと背伸びをして、体を起こそうとすると制服のネクタイを掴まれる。
「へっ?」
「田中先輩……どれだけ、アタシを放ったらかして寝てるんですかぁ?」
甘ったるい声で、大きな瞳を潤ませている極甘フェイスの美少女が――俺のベッドに寝転びながら見つめてくる。
はあ?
これは――ど、どういう状況なん?
春山さん、どこぉ?
俺は春山さんを探しながら、部屋中を見渡した。
はっきり言って――俺は挙動不審になっていた。
「春山先輩なら、家の用事を頼まれたからって帰りましたよ」
「えっ、それなら……」
「あーアタシも帰ろうとしたんですけど、気持ち良さそうに眠っている田中先輩を見ていたらついつい……」
「…………」
ついついじゃねー。
好きでもない男と添寝したらダメだろ?
俺だからよかったが、ヤリチン君や俺様君にそんな無防備な姿を見せたらパクッと喰われるんだぞ?
あーあー。
コイツが寝取られるパターンはよく知らんけど、エロゲあるあるで野獣と化したアイツらの前で無防備な姿を見せたんじゃ……。
はぁ……。
最初は前カノに似ている市瀬のルートは放置しようと思っていた。
だけど、コイツは……。
よく知れば知るほど、前カノには全然似てなかった。
腹立つけど、いい意味でだ。
コイツは、市瀬は――。
はぁ……。
とりあえず、市瀬を誠也きゅんから寝取る
ヤリチン君は退場したが……
すげー関わりたくない奴、筆頭じゃねーか。
だけど、コイツにも幸せになって欲しい。
なぜか俺はそう思うようになっていた。
「田中先輩……もしかしてアタシのこと心配してくれたんですか?」
俺の頬に優しく触れる掌――。
時々、市瀬が見せるあたたかな眼差し。
「多少はな……」
「えへへ」
無邪気に笑う顔を――オレンジ色の夕陽がキラキラと照らす。
それから――。
「ねぇ、先輩……どっちが本命なんですか?」
急に悲しそうな表情をする市瀬。
頬に触れる掌が、俺の輪郭をなぞる。
「山本先輩ですか?それとも――春山先輩ですか?」
市瀬からの予期しない質問に俺が言葉に詰まっていると――。
「あー、やっぱり聞きたくないかもです。それより――」
不意に体を寄せた市瀬の唇が俺の耳先へと触れる。
「田中先輩……今からエッチしませんか?」
そう言って抱きついてくる市瀬に、俺はア然とするのだった。
◇◇◇
ついに市瀬柚乃ルート発動しました。
どうなる田中君。
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