Opus,5

 朝起きると、涙がボタボタと溢れた。


 おおん。


 春山さん……すげー田中のことを好きだったもんな。

 

 だけど、田中は恋愛相手としては見てくれない。


 何千回、何万回、永遠に繰り返される時間の中で、春山さんの哀しみはどれほどのものになっていただろう。


 しかし、だ。

 田中を庇う訳ではないが、田中は田中なりに愛を育んでいた。


 普通の人より遅いだけで。





 『僕ハ君ヲ救イタイ』





 田中の強い気持ちが、この世界の神に通じたのかは解らないが、こいつの初めて持った強い意志が――偶然死んで魂だけになっていた俺を呼び寄せたのかもしれない。


 田中コイツは彼女を寝取られた俺の感情を理解学習したかったんだ。


 田中には何もないから。


 早く学習したかったんだ。


 二度と春山小梅ルートに、誠也きゅんが辿り着かないように。


 まさか『君デイ』にこんな隠しルートが存在するなんて知らなかった。


 ただ、そう言えば、三徹中にストーリーに詰まって、過去の攻略スレを閲覧していた時、一人だけ隠しルートをクリアーした人がいると噂になっていた。


 結局どんなルートで、どんなヒロインかまでは解らなかったようで、ただの噂として片付けられて、次の話題へと流れていった。


 そのヒロインが春山さんだったなんて――。


 しかも、田中の立場から考えると竿役ジョーカーが誠也きゅんかよ……。


 あれっ、それって最強じゃね?


 

 はぁ……。


 

 どうしたらええんや。



 俺はもう見慣れてしまった天井を仰ぎながら、溜息を吐くのだった。



 あと……。

 俺の今までの行動は絶対に春山さんには言ったらあかんやーつに認定された。


 墓場まで持っていく。


 そして、何れはリセット条件を全て把握して、田中を綺麗な体で返そう。


 まー。

 どうするかは知らんけど。

 

 さて。

 とりあえず、一つずつやりますか。


 千里の道も一歩から。


 まずは三月しゃまから。


 俺はタコのキーホルダーをぎゅっと掴むと、涙を袖で拭き拭き、朝ご飯を食べにキッチンへと向かうのだった。



 ◇◇◇



 物語はそろそろラストへ向かいます。

 

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