Opus,9


 夕陽のような赤い髪。

 紫、ネイビー、青、緑、黄、オレンジ、赤。

 太陽の最後の色と同じ色。


 この世界がゲームの世界だと、改めて感じさせる鮮やかな色だった。


 あと三月しゃまの顔が近い。

 美し過ぎるご尊顔。

 その鼻先が触れ合う距離。

 



 不意に――薔薇の香りがした。




「……先輩が花束を?」


 俺の素朴な質問に、こくりと可愛く頷く三月しゃま。

 

 こ、この人……。

 見た目も口調もヤンキーだけど、育ちがもっそーセレブなんだよな……。


 そして、アイマスクをされて、ココに連れて来られる途中、乗せられた車の座席は、お尻に優しいフカフカ仕様だった。

 今、俺が押し倒されているベッドも……人間何人寝れるん?

 あと、この部屋は畳何十枚分?

 えっと、そもそも畳で数えたらあかん系?

 ねーねー。

 誰かおせーて。


 俺が一人で困惑していると、三月しゃまの形のいい唇が動いた。


「あの日から……。アンタに助けてもらった日から……アンタのことしか考えられない。本当はアンタの家に押し掛けて看病したかった……」


 本来――この台詞は誠也きゅんと結ばれる時に発せられる。

 

 それにトロンとした瞳。

 こんな溶けるような眼差しも、俺へ向けられていいはずはなかった。


「あの……俺、そんな大したことしてないっすよ……」

「……くぅ……謙遜までするのかよ」

「いやいや、謙遜とかではなく事実っすから」


 うん。

 俺はただ頭おかな人間を演じただけにすぎない。

 そして、たまたま他力本願日本警察頼りが上手くいっただけ。

 

 エロゲ内で、自力でヤンキーを制圧するカッコいい誠也きゅんとは全然違うのだ。




「唇……まだ切れてるし」

 



 ――三月しゃまの指先が唇に触れる。

 




「あーしのせいだ……」





 切ないほど、眉を顰める三月しゃま。

 

 



「だから、さ。あーしに責任取らせてよ」





 耳元で囁かれる甘い言葉。

 バクバクバクバクバクバクと爆音を鳴らす俺の心臓。





「ごめん……今の言い方はあーしに都合が良すぎるね。あのさ、正直に言うけど……あーしはアンタが欲しい……」

「へっ?」





 そのまま――強引に押し付けられる柔らかな唇。


 まさか堪能出来るはずもなく、俺は山本さんとの事を思い出すような展開に体が硬ってしまうのだった。


 


 ◇◇◇



 ど、どうなる田中君――。

 

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 評価や応援、コメントまで。

 感謝申し上げます。

 

 



 

 

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