Opus,4

『女難の相が出ているらしく、今朝は別々に登校しよう』


 念の為、家を出てすぐに、春山さんへメッセージを送る。

 なぜなら、毎朝、律儀に迎えに来るのだ。

 こんないい人を「女難の相」とやらに巻き込んではいけない。


 ピロンッ。


 早速、お返事が。


『おはよう。連絡ありがとう。大変だね。今日は先に行くね。』


 ピロンッ。


『ガンバレの小リラック○のスタンプ』


 おお!

 女の子からのメッセージだ。

 前カノの要件だけのメッセージとは、全然違う。


 それにレスの早い人は信頼出来る人が多いらしい。

 統計学上ではないが、心理学的にはそう感じる人が多いそうだ。

 不思議な話だけど、相手がいて初めて「信じる」とか「頼る」が発生するのだから、そういう意味では的を射てると思う。

 

 春山さん、ええ子や……。

 本当に田中を大切にしている。

 

 しかし、この二人の関係は謎なんだよな。

 どうやら、二人は付き合っていない。

 田中はいつも「無」で、春山さんの話に頷くだけ。

 毎年、誕生日プレゼントは春山さんが用意するだけで田中からは何も無い。

 ホワイトデーだけは、いつも近所のコンビニでクッキーを買って渡しているけど。

 

 友達と呼ぶには距離が近い。

 恋人と呼ぶには距離が遠い。


 友達以上恋人未満と呼ぶ関係でもない。

 そこに田中の意志がないからだ。

 

 だけど……。

 

 もしも、田中が山本さんとセックピーをしたと知ったら……。


 春山さんが大泣きしている姿が浮かぶ。


 うわー。

 俺は何てことをしてしまったのだろう。


 俺にとっては山本さんは推しだったし、俺の下半身は進化途中の猿でしかなかった。

 いや、かなりのアホが露呈してしまったが。


 今の俺は田中なのだ。


 田中としての行動もしていかないと。

 カフェオーレを優雅に飲んでる場合じゃなかった。

 春山さんを泣かせてはいけない。


 はあ……。


 しかし、起こってしまった出来事は仕方ない。

 

 いつか春山さんには正直に話して謝る。

 ここがエロゲの世界で、俺は君の知ってる田中じゃないと。

 だから山本さんとの行為はノーカンです。


 はぁ……。

 でもそんな話を信じて貰えるだろうか?


 それに謝っただけで許される問題なのだろうか?


 最悪……。


 リセットすれば……。


 だけど、バッドエンドを迎えるための条件がはっきりしない。


 あと「NTR絶対ダメ」だ。


 これだけは譲れない。


 誠也きゅんとヒロイン達にはハッピーエンドを迎えて欲しい。


 それにはヒロイン全員が寝取られずに、ヒロイン全員が誠也きゅんと結ばれるハーレムエンドを目指すしかない。


 貞操観念はんなりなこの世界では、重婚が認められているからだ。


 大丈夫、最善策を考えろ。

 山本凛音最難関ルートを何とか出来たんだ。


 あとは犀川龍介ヤリチン君佐之倉礼央俺様君をどうにか出来れば……。


 最悪、市瀬柚乃に二人とも引き取って貰えば……と俺が本末転倒なことを考えていると、


「あれぇ?田中先輩?今朝は一人ですか?」


 通学路途中のコンビニの前で、俺に小さく手を振る極甘フェイスの美少女。


「おはようございます〜」


 小走りでキュルンと駆け寄ってくる小動物のような可愛さに、サラリーマンや他校生までもが釘付けになっている。


 でも、俺は……過去のトラウマから全力ダッシュで逃げたよねー。


 関わりたくない。

 関わりたくない。

 関わりたくない。

 関わりたくない。

 関わりたくない。


 そして、脇目も振らずに全力で走った結果、



 ここ、どこぉ?



 道に迷ったのだった。



 ◇◇◇



 田中君の女難は始まったばかりです。

 不憫っ……。

 沢山の評価や応援、コメントまでありがとうございます。

 目を通しては頑張ろうと思います。

 感謝申し上げます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る