Opus,10

 グラウンドから教室へ戻る途中の昇降口で、俺はある人から壁ドンをされていた。


 きゃっ、三月しゃま。


 俺は乙女になりながら、迫力のある御尊顔を間近で拝見することになった。

 

 美人とはこういう人のことを言うのだろうな。


 俺がぼんやりそんなことを考えていると、三月様は「アンタ、あのキュルン女に靡かないなんて意外とやるじゃん」とか何とか言って来たが、兎に角、顔が綺麗過ぎて、全然会話の内容が頭に入って来なかった。


 それに隣にいる春山さんがガタガタ震えていて気の毒すぎた。

 それでも、この状況から俺を救い出そうとしてくれていた。

 

 君、ええ子、過ぎん?


 俺はこんな状況にも関わらず、心が癒されていく。


 大丈夫だから、と春山さんに目配せをするが、「でも……でも……」とオロオロしているので、とりあえず最速で眼前の問題を片付けることにした。


「三月先輩、俺に何か用っすか?」


 とりあえず、御用件を伺わねば。


「へぇ〜アンタ、あーしのこと知ってるんだ?」

「まー、ある意味、先輩は有名なんで」


 俺がそう言うと「チッ!どうせ悪い噂でだろ」と舌打ちをする。


「いやいや、悪い噂じゃないっすよ」

「はぁ?じゃあ、どんな噂だよ?」

「すげーおっぱぃ……じゃなかった。すげー美人の先輩がいると聞いてたんで」

「んん?お前、今おっぱいって言わなかったか?」

「……言ってないっす」

「はあ?絶対言っただろ?」


 俺は三月先輩と春山さんに白い目で見られながら白を切る。


「……言ってないっす」

「…………」

「…………」

「まあ、いいけどよぉ。それにあーしは美人じゃねぇし」


 ん?

 はあ?

 それこそ、はあ?だろう。

 おっぱい美人に……。

 もとい美人でおっぱいな先輩にどれほどのユーザーがお世話になったことか……。


 俺には解る!!

 俺は『君デイ』の全ユーザーを代表して、全力で反論する。


「先輩は美人っす!!!!」


 どーん!!

 さらに握り拳を作って力説する。


「先輩ほどの美人を見たことないっす!!!!」

「はぁぁぁぁ?ア、アンタ、急ににゃに言って……くっ、くしょー覚えてりょよ!!」

 

 急に顔を真っ赤にして立ち去っていく先輩。


 あっ、転けた。


 大丈夫だろうか?

 

 うーん、それより何の用だったのだろうか?


 謎だ。


 

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