Opus,8

 翌日の昼休み。

 俺はグラウンドの片隅で、春山さんが作ってくれたお弁当を食べていた。

 

 どうやら、春山さんが所属している緑化委員会の集まりがない日は、こうやって二人でお弁当を食べるようにしていたらしい。


 田中ぁ、お前……。

 週三でこんな美味しい物を食べさせて貰ってたのかよ。


 俺は美味しすぎるお弁当にがっつきながら涙を流した。


「この唐揚げ、サクサクして美味いな」

「そうかな?えへへ……それね、テレビでやってたんだよ。細かく砕いたアーモンドと胡麻を衣に混ぜているの。香ばしくて食感も変わるらしくて……」

「へぇー、確かに新食感で美味いよ」

「そっか、良かった……」


 口元を手で隠しながら、照れくさそうに笑う春山さん。


 和む。


 しっかし、どれを食べても美味しい。

 このきんぴらなんて絶品なんだが。

 

 俺が無言にしかなれないほど舌鼓を打っていると目の前に人影が現れる。

 

 見上げると――そこには見覚えのある極甘フェイスの美少女が立っていた。


(げっ、市瀬柚乃イチノセユノ!)


 俺は思わず心の中で叫んでしまう。

 

 市瀬柚乃――『君デイ』のヒロインの一人だ。


 しかも山本凛音を抑えて、一番人気のあるヒロインだったりする。


 夏休み――誠也きゅんがバイトを始めたファミレスで柚乃と出会ってから、事あるごとに誠也きゅんを振り回すのだが、エッチの時だけは一転、素直で従順になるというギャップを発揮して、プレイする人間を軒並み虜にして行ったあざと系女子だ。


 だがしかし、俺の一番苦手なタイプだった。

 なぜなら、俺の親友と浮気していた元カノに似ているからだ。


 怖いほどそっくり。


 はあ……。

 関わりたくない、関わりたくない、関わりたくないよぉ。


 でも、何か目がキラキラしてない?

 

 柚乃、面白いモノ見つけましたー。


 みたいになってない?


 あと、「どうして、山本先輩の彼氏さんが他の女の子とお昼ご飯を仲良く食べたりしてるか気になりますぅ」という、目だよね、それ?


 俺は口元を引き攣らせながら、そう思うのだった。

 

 


 


 

 

 


 

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