Opus,5
――推しの全てが可愛い。
これは万国共通の認識だと思う。
例え今から推しに罵られる運命だったとしても。
「急にこんな場所へ呼び出してごめんなさい」
山本さんは眉尻を下げて、申し訳なさそうな表情をする。
「大丈夫っす」と俺は小声で返答し、ペコリと会釈をするだけに留めた。
「今日は田中君にお願いがあって、こんな場所まで来て貰ったの」
んん?お願い?
ずっと俺がガチ見していたのをキモいと罵られるんじゃなかったのか?
うーん。
「そうっすか……。それでお願いって何ですか?」
俺が首を傾げていると、「とても言い辛いのだけど……」と山本さんは更に眉尻を下げた。
睫毛が長い。
遠目からでもはっきりと分かる。
俺が見惚れていると、再び山本さんが話し始めた。
「田中君は春山さんと親しいでしょう?」
「はい、まあ」
「ふ、二人ってお付き合いしているの?」
「いや、別に付き合ってはないっす。幼馴染なだけっすよ」
「そ、そうなの?私はてっきり付き合っているのかと……」
山本さんは俺から目を逸らしながら、何やら一人でブツブツと言い始めた。
そして、次にロダンの彫刻のように考え込んでいる山本さん。
俺は推しの悩める姿を拝見しつつ、再び話し始めるのを待つこと十分――やっと山本さんが重い口を開く。
「田中君……私と……その……付き合ってくれないかしら?」
手を胸前で軽く合わせて、両頬を桜色に染めながら、俺を見つめる推しからの告白に――俺は呆然と立ち尽くすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます