Opus,4

 ――昼休みの屋上。

 

 初夏の日差しはじんわりと皮膚を焼く。


 あづい……。


 俺はネクタイを緩めて、カッターシャツをパタパタさせながら山本さんを待っていた。


 待っている間、退屈なので流れる雲をぼんやりと見つめていた。


 そして、折角エロゲ内へ転生出来たのなら主人公がよかったなと思う。

 もしも、主人公に転生していたら、ゲーム内知識のある俺は――山本さんとあんなことやこんなことが出来たのに。


 所詮、今の俺はただのモブ。

 きっと、手すら握れないだろう。


 だが、もしも俺が主人公へ転生していたら、リアル誠也きゅんを見れなかった。

 だから、ただのモブでよかったのかもしれない。


 それに『君デイ』をプレイしている時、主人公の誠也きゅんと俺の性格が真逆過ぎて、ゲームへの没入感はゼロだった。

 寧ろ、誠也きゅんに助けられて、誠也きゅんを好きになっていくヒロイン達の甘酸っぱいラブストーリーを第三者視点から眺めている感じだったしな。


 だから、まー。

 この世界の神様が俺に見合った役を用意してくれたのだろう。


 しかし、遅いな山本さん。


 うーん、何かあったのだろうか?


 俺が時計と睨めっこをしていると、不意に肩を叩かれる。


 やっと来たのかと振り返ると――そこには……。


「三月鏡花しゃま?!」


 あっ、噛んでもーた。


 いや、噛むのは仕方ない。


 なぜなら、『君デイ』のヒロインの一人である三月鏡花ミツキキョウカ様が俺の肩に触れていたのだから――。


 ――三月鏡花様。


 『君デイ』のヒロインの中でも、ダントツでナイスバディーなお方である。

 また、おっぱいなどはおっぱいしてて、おっぱい過ぎるお方でもある。

 ゲーム初めは荒々しいヤンキー口調だが、とあるイベントを経て誠也きゅんにメロメロになると、もう可愛くなりすぎて、ギャップ萌えが酷いお方でもある。


 エロシーンも、あーあー。

 俺の口からは言えないほどエロい。


「なあ、アンタ、筋力はある方?」


 魅力的なハスキーヴォイスが耳へと響き渡る。

 唐突な質問でも、耳が幸せすぎる。

 俺は卒倒しそうになりながら、ガクブルする足で踏ん張った。

 

「全然ないっす!」


 そして、全力で正直に答える。


 そしたら「あっそ」と踵を返して歩いていったよねー。


 なんかのフラグかと思ったけど仕方がないのだ。


 もしも、ここで俺が三月様と話込んで山本さんとエンカウントしようものなら、俺のキャパは崩壊する。


 そして、やはり三月様と入れ違いで山本さんが屋上へ現れた。


 不意に屋上を吹き抜ける一陣の風が――彼女の美しい黒髪を靡かせる。

 軽やかに手を添えて髪を押さえる山本さん。


 ――きゅん。


 この時、俺の心臓は乙女になった。

 そして、思った。

 この世界の神は――俺の反応を見て楽しんでいるじゃないかと。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る