第50話 謁見だって!

 ジガ君たちの様子を見ると、だいぶ一生懸命に説得を試みているようだった。


 まあ、難航するよね。ジガ君はダンジョンの最下層以外はまだ見ていないわけだし、メルクォディアの実際の探索がどうなのかは、全然知らないわけなのだから。

 口では稼げるとか言っても、そう簡単に今の生活を変えられるものではない。こっちは、貴族サイドだから、うちで雇うとなれば日本的な感覚では公務員に当たるのか? だとすれば、それに価値を見出してくれるのであれば、ワンチャンあるかも? といったところ。


「お待たせいたしました~! メガエビの香草焼き二人前にゃん~!」

「おほ~~~~! デッカくて豪華! 超美味しそう!」

「こ、これなら私も」


 メガエビはデカかった。デカい。めちゃデカい。マジかよ。

 日本でこれ注文したら、1万円……いや2万円……もっとだな、3万円くらい取られるかもしれない。なんたって、二人前で巨大なエビが2尾。背で割られた伊勢海老っぽいエビが香草と塩で焼かれている。


 香りも良い。これはローズマリーだろうか。同じ香草ではないだろうが、獣人なのに香草を好むというのは少し意外だ。ハッキリ言ってフィオナの家の料理と比べても引けを取らないクオリティである。伊達にこの世界の大都市で店をやっているわけではないということだ。


 ぶっちゃけ屋台なんかも入れれば、競合店はめちゃくちゃあるはずなのだから、その中でも、トップ級の探索者パーティーが懇意にしているという時点で、良い店であるのは確定だったということなのかもしれない。


「あっ、美味しい。私、メガエビってそんなに食べたことなかったんだけど」

「うんうん。美味しいねぇ。私もエビは大好物」


 値段を聞いてみたら、これまた安い。驚安だ。せいぜい1人前で2000円とか、それくらいの価格帯という感じ。ということは、エビの原価は1000円以下ということ。あんな大きなエビが! 日本人としてはかなり朗報じゃない? エビグラタンに、エビスパゲッティ、エビフライ、海老天、エビチリ、エビマヨ、エビ刺し、エビの握り、香草焼きもいいけどチーズ焼きとかもいい。エビだけでやりたい料理が無限に湧いてくる!


「ど、どうしたのマホ、急に上の空になって……」

「ゆめがひろがりんぐ……」

「マホがエビ食べておかしくなった! ま、いつものことか。あ、これおかわりお願いしまーす」


 フィオナがゴクゴクとビールを飲みほす。

 さすがは探索者やってただけあって、なかなかいける口だね。私もワンモア!



 エビを完食したころ、ジガ君が結果報告に来た。


「主殿。なんとか説得できましたが、やはり実際に見てみなければわからないという意見が思っていたよりも多く……」

「ん。そりゃそうでしょ。まあ、別にそんなすぐ決めなくても、実際にある程度見てみてから決めてもいいよ」

「いえ、一度見ればわかるはずです」

「そうかな。ダンジョンってそういうものなの?」

「いえ、ダンジョンではなく、ポチ様タマ様カイザー様と謁見させていただければ」

「謁見」


 あの子たちは獣人的には王様的なものに見えている……ってこと?


「まあいいけど。でも、今日は遅いから明日にしよっか。フィオナもこれだし」

「なぁ~~~~にぃがこれですかぁ~。マホぉ。もういっぱい飲むのぉ」

「まさか、フィオナがこんなに弱いとはね……。この子、探索者時代とか大丈夫だったんだか」

「うぇへへへへ。のんじゃらめって言われてたんですぅ~。す~ぐ酔っぱらうからって。ぜぇ~んぜんよってなんかないのにんぇ? にゃは」


 ぎゃはぎゃは笑いながらタバコを取り出して火をつけるフィオナ。

 店員さんが急いで灰皿を持ってくる。


 な、なんてたちの悪い酔っ払いなんだ……。

 やはり自分の酒のは、ちゃんと自分で把握してないとダメなんだ。

 お父さん。あなたは正しかったよ……。


 ◇◆◆◆◇


 次の日、メルクォディアの迷宮近く。

 セーレの転移を使って、誰もいない野原にジガ君のパーティーメンバーを招集した。


 フィオナは自宅待機。二日酔いだ。

 あの子にはもう酒を飲ますのはやめよう。

 

 ジガ君の元パーティーは、全部で11名。

 猫獣人の斥候が2名で残りは戦士。


 種族はジガ君と同じ狼系の獣人が3名。リザードマン風のトカゲ獣人が2名。クマっぽい獣人も2名。タヌキっぽい獣人が1名。キツネっぽい獣人が1名。

 なるほど、みんな強そうだ。

 位階もジガ君より少し低いが全員10を超えているのだとか。

 見た目はけっこう年齢がいってそうな子から、ジガ君より若そうな子もいる。幼馴染と、こっちで知り合った獣人とで結成されたパーティーらしい。


「主殿。それではよろしくお願いいたします」


 ジガ君は気楽にそう言うが、なんというか、パーティーの人たちはだいぶ私のことを訝しんでいるっぽいんだよな。

 まあ、彼らからすればリーダーを奴隷として購入した人間なわけだし、しかも、ちょっと洗脳されてんじゃないの? 的な感じなわけじゃないですか。

 本当にポチタマカイザーを見せただけで納得するのかな。

 獣人コミュニティよくわからん。


 とにかく百聞は一見にしかずということで、セーレに頼んでポチタマカイザーを連れてきてもらった。

 本当は巨大アロワナのアロゥも見せたいところだが、水から出れないから仕方ない。そのうち海か大きい湖があったら泳がせてやろう。


「お外だワン! ご主人~! 走っていい?」

「日向ぼっこするにゃん」

「ガァ」


 お披露目には早いということで、まだ彼らは外で自由にはさせていない。だからか、こうしてたまに外に出すととても喜ぶのはやっぱりイヌネコトカゲだからだろう。

 ポチは駆け回りたいし、タマはひなたぼっこしたいし、カイザーは日光浴がしたいのだ。


「ちょい待ち、ちょい待ち。君たちのことを見たいという人たちがいるんだよ。昨日会ったジガ君の仲間」

「ホントだワン。同じような匂いがするワン」


 ジガ君の仲間たちを見ると、全員棒立ちで、ジガ君の時と同じようなリアクションだ。

 よく見ると、全員プルプルと震えている。

 感動か? 感動なのか?

 ジガ君だけがドヤ顔である。


「ほれ、ポチタマカイザー。彼らに挨拶して来なさい」


 けしかけてみた。

 ワフワフと11名の探索者たちのもとへと駆け寄っていくポチタマカイザー。事情を知らなかったら、普通に恐怖かもしれないな……と思わなくもないが、彼らの反応は予想と違うものだった。

 全員、なぜだが跪いてしまったのだ。

 ポチとタマがクンカクンカとやってもされるがままである。

 結局どういうことだってばよ。


「それで、これはどういう状況というわけなの?」

「もちろん謁見は成功ですよ。見てください、あのポチ様の太陽の下で尚のこと神々しいお姿……。俺もいつかはあのようになれるのかと思うと、胸が熱くなります」

「なれる……なれるのかなぁ……」


 完全に獣フォームのポチたちと、獣人(かなり人間寄り)の彼らとではだいぶ違うような気がするけど、なぜか成長するとあんな感じになるという気がするらしい。……いや、違うな。見た目は些末事なのかもしれない。なにせ魔力が見える世界だ。私の目には見えないなにかが、そう感じさせるのだろう。

 


 謁見というか、匂い嗅ぎっこが終わり、11名の者たちの代表らしき男性。

 ジガ君と同じ狼獣人の一人が、私のところに来た。


「マホ様。ジガから話を聞いたときは正直半信半疑でした。ですが、こうして実際にお会いして……本当に感動いたしました。獣人の高み。これほどの神気溢れる方々を3名も傘下に収めていらっしゃるとは。ジガは本当に良い縁に恵まれた。あれはあまり運が良いほうではないから、心配していましたが……。我らにとっても素晴らしい縁となりそうです」


 そう言って頭を下げる彼は、ジガ君の親友のバヌートさんというそうだ。生まれ故郷の村の幼馴染で、バヌートさんは村長の側近の息子。年齢もジガ君より4つも上なのだとか。

 他のメンバーも加入時期はそれぞれらしいが、けっこう今のメンバーになってから長いらしい。

 命をかけた冒険をともにした仲間たちというやつだ。いいね。



 改めてジガ君が全員を連れてきて、私の前で片膝をついた。


「我ら、雷鳴の牙一同。マホ様の元で働かせていただきます」

「ジガ君からある程度リスクとかデメリットも聞いてるかもだけど、悪いようにはしないから。少なくとも食べるのに困ることにはならないからね。よろしく」

「よろしくお願いいたします! ……それで、お願いなのですが、その……」


 よろしくした後、みんながなんだかモジモジとしだす。

 言いにくいお願いなのだろうか?


「どうしたの? なんでも言ってみて。無理なことなら無理っていうし」

「その……ポチ様タマ様カイザー様といっしょに遊んでもいいでしょうか……」

「遊ぶ?」


 歴戦の探索者がそんな単語を使うと思わなかったので、ちょっと驚き。

 いや、歴戦ではあるけれど、同時にまだまだ子どもでもあるのかもしれない。ジガ君だってまだ13歳なのだし。8歳から探索者やってるらしいけど。

 ちなみにポチはすでに凄まじいスピードで走り回っているし、タマは木に登ったり降りたりしてるし、カイザーは目をつぶって日光浴を楽しんでいる。

 まあ、どういう遊びだかわからないけど、全く問題はない。


「遊ぶのなんか道具使う? ボールとか持ってこよっか」

「いいんですか⁉ ぜひ!」


 なんか思ってたのと違ったけど、バランスボールとかロープとか遊ぶのに使えそうなものをホームセンターから持ってきて渡したら、思い思いに遊び始めた。

 あとは普通にポチやタマに抱きついてもふもふ楽しんでいる。

 カイザーのところにはリザードマンの二人が一緒にいって、一緒に日光浴を楽しんでいる。静かで渋い。


「……ま、これで人手不足は多少はマシになりそうね。それにしても、ポチたちって、どうしてあんなに獣人に好かれるのかな。大きくてかわいいだけじゃないよね?」


 なんとなしに隣にいるセーレに話しかける。

 セーレは寡黙を通り越して、一言も喋らずフリップを使って会話をする変わり者だが、別にコミュニケーションに難があるというわけではない。むしろ、喋ったら饒舌なタイプという気がするのだが、口を利かないのはなにか理由があるのだろう。無理にそれを聞き出すこともないので、そのままにしている。

 必要があれば、自分から言ってくるだろう。


『あの獣らはレディマホと同郷という話でしたね?』

「そうだね。ホームセンターごとやってきたという点でも同じ」

『彼らは半精霊化しています。半神と言ってもいいでしょう』

「ふぅん……って。は? なにそれ」

『魔石を食べたということでしたが、通常は魔石を体内に入れてもそれが反応することはありません。ですが、魔物を倒さず、脆い体のまま最下層の高純度の魔力に身を晒し続け、あまつさえ、そこに最高純度の魔石を入れたことで、強制的に高次の存在へとランクアップしたのでしょう』

「そんなことあるんだ……。じゃあ、私も同じような状況だからランクアップできちゃう?」

『レディマホはすでに魔物を倒していますから、難しいかと』

「ですよね~。ってか、別にやるつもりもないけどね。嫌じゃん、人間やめるとか」

『それがいいでしょう』


 それにしても半神か。

 ダンジョンマスコットとして表に出しとこうとは思ってたけど、普通にポチたちだけでめちゃくちゃ集客できちゃうかもしれないな。

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