第51話 ドッピーも頑張ってるね!
私がダンジョン内部の改装をやったり、ジガ君と出会って彼のパーティーメンバーとの契約を進めている間、ドッペルゲンガーのドッピーには、地上の状態の確認してまとめてもらっていた。
探索者の街にするために、なにが必要で、どういう優先順位で作っていくか……ハッキリした情報がなければ、どう進めていけばいいのかもハッキリしないからだ。
しかも作ればいいというものでもない。
働く人間がいなければ意味がない。つまり、地元住人との折衝が欠かせないということだ。
特に「現在もダンジョン近隣で店舗を経営している住民」の情報はかなり密に調べさせた。
せっかく頑張って商売を続けているのに、私がホームセンターの品とかを持ち出して、タダ同然で配ったりしたら、せっかくの地元民が離れる原因になってしまう。
だから、まず地元の状態をきっちりチェックする。彼らは私たちの仲間であり、言ってみれば運営最初期のキーメンバーみたいなものなのである。
みんな今の状態が良いとは思っていないのは確かなはずだから、ちゃんと話せば協力してくれるだろう。
「で、ドッピー。進捗はどう? 必要な資材とかあればじゃんじゃん卸しちゃうからね」
「では、報告いたします。長くなりますよ」
ドッペルと数日ぶりに合流して、地上部分の進捗を確認する。
ドッピーは今、私の姿だ。私自身と対面して話をするという謎な状況だが、運営の話をするなら『私同士』であったほうが、話が早い。
ドッピー自身も、オリジナルの状態は意外とアイデンティティがあやふやだそうで、なにかになっている状態のほうが落ち着くのだそうだ。妙な生態である。
「まず残っている店からですが、ダンジョン近くで営業しているのは鍛冶屋が一軒のみです。あとは魔石の買取所ですが、こちらはダーマ家の運営となっています」
「宿屋とか道具屋はない……ってこと?」
「すべて領都のほうへ移転してしまったようですね。探索者がいなければ稼ぎようがありませんから」
「それでも鍛冶屋は残っている……と。不思議だね。なんで移転しないんだろ。あ、鍛冶道具は設備がけっこう大掛かりだからか」
「それもありますが、農具や工具の手入れなどの仕事もあるようですね。もともと腕の良い職人だったようで」
鍛冶屋が残ったというのはかなり運が良い。僥倖と言ってもいい。
なぜなら、道具屋などの物販や、ベッドさえあればなんとかなる宿屋などは、ハッキリ言って、建物さえあれば、後はホームセンターを駆使すれば体裁を整えるのは容易い。
だが、鍛冶屋みたいな職人と設備が必要なものは全然別。
ホームセンターでは設備も整えることができないし、職人だって呼ぶのは楽じゃない。
一番残ってほしいものが残ってたと言ってもいい。
「じゃあ、その職人さんは絶対死守だね。話はもうした?」
「しましたが、半信半疑でしたね。とりあえず、お酒を贈ったら喜んでもらえました」
「でかした。また私も話をしに行くよ。うちのお抱えにしてもいいかもね。まあ、なにを求めているかがわからないとどうにもならないかもだけど」
「お弟子さんもいらっしゃるので、練習用に鉄を贈ってもいいかもしれません」
「ふむ。あとは燃料とかか。木炭ならいくらでもあるけど、石炭はあったっけかな……」
「たしか木炭しかないですね。ただ、鍛冶では木炭を使っているようでしたよ」
「なら木炭でいいか。売るほどあるからね」
なんたってブツはたくさんある。探索に鍛冶屋は必須だよ。うちで売っている武器なんて、斧とナイフ(とか包丁)くらいのものなんだから。
とにかく、鍛冶屋は貢物をしまくってでも、うちに残ってもらうぞ!
「あとは、廃墟というか使われなくなった建物ですね。こちらも、もともとは道具屋や宿屋が存在していたので、そのまま再活用できるよう整備を開始しています」
「具体的には?」
「清掃と補修。これは地元の職人を雇いました。こっちには印籠がありますから、かなりやりやすいですよ」
印籠……つまり、ダーマ領主代行の証である。
私とフィオナも持っているが、ドッピーにも持たせてあるのだ。
ちなみにドッピーは一人で行動しているが、そのへんのチンピラなど問題にならないほど強いので、治安が多少怪しくても全然問題ない。というか、ドッペルゲンガーは変身前の状態が普通に『最下層にいる魔物』の強さなのだ。
それを格下扱いしているセーレがちょっと異常なだけなのである。
「街から人を呼ぶことはできそう?」
「そちらも動いていますが、まだ腰が重いですね。実際に人が増えるまでは、仮店舗という形で運営していくしかないかもしれません」
「一回失敗してるわけだからねぇ。やり直すなんて言われても、信用されないか」
究極、物販はどうにでもなる。商人は売れるとわかればすぐに来るだろうから。
物を運ぶのも、それほど時間は掛からない。まして、領都からなら1時間程度のものだ。出張販売所ならまたたく間に整備できてしまうだろう。
問題はある程度の専門性が必要な店。具体的には「酒場」と「宿屋」だ。
「実は酒場に関してはちょっとツテがあるかもなんだ。メリージェンで獣人向けのお店があってね。もしかしたら、うちに出張で店出してもらえるかもしれない。こっちで、店舗は作る必要あるだろうけど、人だけでも来てもらえたらって。まだ交渉は全然まだだけど」
「それは良いですね。ではそちらの交渉はおまかせします。宿のほうは、もう少し街であたってみます。あとは、アレですね」
「アレか。ま、一番大事なとこだからね」
アレとは、つまり探索者ギルドのことである。
安全第一を掲げてダンジョン経営をするにあたって、ここまでに話した酒場やら宿屋やらは、付随設備に過ぎない。
探索者ギルドは本丸だ。
メリージェンやメイザーズは、迷宮管理局のルールでもって運用されているが、フィオナに聞いたところによると、大したルールはなさそうだ。唯一厳密に定められているのは、「魔石」は必ず買取所に収めること。これは、国外持ち出し禁止のルールに則ったもので、ルール違反はかなり厳しく処罰される。もちろん、ただ持っているだけで処罰されるわけではないが、個人が持っていてもほとんど使い道などないものだ。
「魔石買取所の買取相場関係はそのままで良さそうだけど、職員さんは何人いるんだっけ?」
「2名ですね。すでにある程度の話はしていますが、どこまで話すかはマスターの指示を仰ごうと思っていました」
「街でもう数人雇っておきたいね。ギルドの受付嬢で求人出しといて」
「男性も含めて募集しておきます。10名ほど欲しいですね」
ギルド運営には、人手が必要だ。
うちではかなり探索者ファーストな施策をするつもりでいる。
迷宮内部の地図を無償で配るのは当然として、ダンジョン内部の魔物の情報も教えるし、そもそも免許制にする。ペーパーテストに合格した者でなければ、探索者証は与えない。
あとは探索者ランク。
よそでも、上級とか中級みたいなフワッとしたランクがあるようだが、うちでは由緒正しくABCランクを採用する。最初はEランクスタートだ。
最下層まで至ったらSランクをあげてもいいな。
話し合いは進む。
ある程度軌道に乗ったらやりたいことなんかも、案出しだけして、ひとまずの情報共有は完了した。
ドッピーはかなり優秀だ。この短期間の成果としては十分だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます