第46話 レベルアップだね!

 寺院の周りには人がたくさんいた。

 探索者風の人も多いが、単純に見物に来てるだけっぽい人も多い。あるいは、待ち合わせ場所とかになっている可能性もある。街の一等地っぽいし。


 近くまで来ると、本当に巨大だ。現代日本ではもうこういった石造りの大型建築を見る機会は少ない。海外旅行とかに行けば別だろうが、日本にはほとんどないのだ。

 フィオナは勝手知ったるというものだろうが、私は日本の寺しか知らないからな。勝手に入っていいの?


「お、おおお~。すごい。金かかってるね!」


 入って正面の壁。上のほうにどういう場面かわからないが、聖人から施しを受ける村人みたいなモチーフのステンドグラス。

 そこから入った光が、ちょうど聖堂の中央あたりに光を運んでいる。


 左右の壁には大型の宗教画が描かれていて、明かりの魔導具によるものか、意外と明るい。

 天井も高く20メートルくらいはありそうだ。


「しかし、なんか思ってたよりもずっとちゃんとした宗教施設って感じだね。もっと病院みたいなものかと思った」

「病院……? ああ、処置室は入口が別だから。ここでは、位階を知ったり、神との契約をしたりとかそういうことをするんだよ」

「なるほどね。祭壇に死体を横たえて蘇生の魔法とか使うわけじゃないんだ」

「マホ、そんなことしたら血とかで汚れるでしょ?」

「それもそうか」


 ゲームのイメージに引っ張られてたな。

 血みどろな死骸とか、どうやって蘇生するのか知らないけど、よく考えたら魔物に殺された死体なんて、肉体が残っているかどうかすら謎のはず。

 それを生き返らせるっていうんだから、すごい奇跡だ。

 ……いや、その代償で失敗したら灰になるんだっけ? う~む。


「フィオナ、蘇生って失敗したら灰になるって言ってたっけ? その場合って、もう蘇生は出来ないの? できないよね?」

「できるよ? それで失敗したらホントに終わりだけどね」

「できるんかい!」


 灰から蘇生できるなら肉体の多少の欠損なんて関係ないわな。

 どういう理屈なんだろ。魂が残っていれば大丈夫――みたいなこと?

 そんな話をしながら祭壇前まで来る。

 祭壇のところには聖人だか神だかの像があり、これが名前にもなっているルクヌヴィスだろうか? 私はまだこの宗教のあらましを聞いていないから、よくわからない。なんなら興味もない。


「マホ、こっちこっち」


 フィオナが手招きした方向は、祭壇から左右に伸びた広い回廊で、その先に探索者らしき人々が何人か集まっている。

 先には僧侶らしき人がいて、どうもあの人がレベルを教えてくれるようだ。


「なんかいちいちレベル確認しなきゃいけないとか面倒だね。お布施も必要なんでしょ? こう『ステータスオープン!』ってできないもんなの」

「マホって時々わけわかんないこと言うよね」

「異世界人ですからね……」


 お布施は銀貨で支払った。

 なんかけっこう高い。普通に宿で一泊食事付きができる額らしい。たかがレベル確認でこんなに取るとはボってるな。


「それではこちらに手を」


 中年の僧侶に言われるまま、目の前の黒い板に手を乗せるフィオナ。

 黒い板は転送碑と同じような素材という感じがする。ダンジョン由来の品なのかも。

 フィオナが手を置いてしばらくすると、黒い板に数字が浮かび上がった。

 転送碑の時と同じで、アラビア数字とも漢数字とも全然違う形なのに、なぜか何と書いてあるのかが読める。


「ふ~む? 16? これって高いの?」

「う、うそ……。本当ですか、これ。神官さま」

「間違いありませんよ。頑張りましたね」


 板から手を離し、喜んでいるんだか驚いているんだか、口と目を見開いたまんまのフィオナ。

 私はこれが凄いのかなんなのかもわからないんですけど。

 それで、何も言わないで私の手を引いて、どんどん歩いていく。


「ちょ、ちょっとどうしたのフィオナ」


 どんどん歩いて、そのまま外に出た。

 なんなんだ。


「だから、どうしたのよ、急に」

「マホ! やった! すごいよ! すごい!」

「だからなんで?」

「だって、マホ! 16だよ⁉ う、うわぁ~~~! 嘘みたい!」


 尋常じゃないよろこびを見せるフィオナ。

 なにがなんだかサッパリだ。


「マホ。私、前に測った時……マホに会う前だけど、それまでは位階7だったんだ」

「じゃあ倍以上だ」


 まあ、下層のボスを何匹も倒したんだし、むしろもっと上がりそうな気がするけど。


「位階ってね、だいたい10で上級って言われているんだ。そこからは上げていくのが大変で、ベテランでも13とか14とかって言われてるくらいで。下層に潜っていかないと順化は進まないからさ。でも下層に行くほどリスクは上がるから」

「最下層でしばらく過ごしちゃったからねぇ。むしろよく16で済んでるよ」


 ゲームとは違うのだろうけど、魔物を倒して強くなるみたいなのがあるのなら、それはゲームと同じようなことだろう。

 経験値……と言っていいのかわからないが、最下層のボスならかなり多いはず。しかも、私たちはたった二人でそれを分け合ったのだ。

 フィオナが言うには、迷宮探索は通常6人、少なくとも4人でパーティーを組むものらしいのだから、それこそ想定の三倍は経験値をゲットしたことになる。

 それならレベルも当然上がろうというもの。

 必要経験値がレベルと比例して上がっていくのならば、私はフィオナとほとんど同じくらいの位階(レベル)に達してるということ。最低でも13くらいには。

 全然そんな感じしないけど。


「まあ、でもフィオナが強くなっても迷宮の中の仕事はあんまないけどね」

「え、ええ~。私っていちおう地元の筆頭探索者じゃない? せっかくだから、その地位を維持したいんですけど。位階16なら、ゲートキーパーも倒せるだろうし」

「ゲートキーパーって?」


 また新しい単語だ。門番ってことか?


「5階の転送碑にはゲートキーパーいないけど、10層の転送碑の部屋の前にはいるのよ。まだ私は見たことないけど、けっこう強い魔物が」

「ほう。中ボスだね。そんなのがいたのか」


 最下層がボスラッシュだったことを考えれば、十分考えられたことだ。

 なるほどなるほど。ダンジョンエンターテイメント的にも美味しいね。中ボスを倒したら一人前だよ、おめでとう! と探索者ランクとか上げてやってもいいな。

 実際のところ、まだ6層までしか地図も出来てないし、私自身も見て回らないといかん。時間がいくらあっても足りないね。


 その後も、メリージェンの街をあっちこっち見て回った。

 ハッキリ言って、実際に運営している迷宮街はノウハウの塊だ。もちろん、改良すべき点もあるのだろうが、現時点での正解の一つであることは間違いがない。

 すぐにマネできるものもあるし、マネできないものもある。


「どう? マホ。収穫あった?」

「あったあった。めちゃくちゃあったよ」

「勝算は?」

「全然あります。ちょいと汚い手も使う必要があるけどね」

「なに、汚い手って……」

ズルチートってこと」


 本来、ホームセンターの資材を使うのはチート以外の何物でも無い。クオリティの突出した素材を、無尽蔵に使用できるのだから。

 この街は人も多いし、施設もたくさんある。これだけの人数を抱え込めるだけのキャパシティがあるのだ。それはそれで凄いことだと思う。


 だが、質は別だ。大金を払えばある程度の質も伴うのだろうが、そうでないなら、お察しとしか言い様がない。

 フィオナと食堂に入って少し食べたけど、なにもかも雑だ。

 味には好みがあるにせよ、それでももう少しやりようがあるのではなかろうか。

 この世界に住む人間ならば、こんなもんと思うのかもしれないけどさ。


「とにかく、一度戻ろうか。明日からまた忙しくなるよ!」


 借金問題もひとまず片付いたし、実際の迷宮街も見れた。

 私もやるべきことをやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る