第45話 豪華すぎるだろ!
オークションが終わってから、事務手続き関係をエヴァンスさんに任せ、私とフィオナは二人でメリージェン迷宮街の敵情視察を行うことにした。
最初は騎士のリカルドさんもいっしょにということだったけど、これは固辞した。治安的には人も多いし怪しいらしいんだけど、フィオナは中級探索者だし、いざとなったらセーレを呼べばいいので。
「しっかし、本当に盛況だね。こんな規模の迷宮街があっちこっちにあるの?」
「さすがにいくつもはないよ。大きいのはこことメイザーズくらい。うちみたいに人気が出なくて人が少ない迷宮はそこそこあったはず。良く知らないけど」
「国外は?」
「外国にもあるはずだよ。魔石を国王様が一括で集めるのも、外に流れないようにしてるからだっていうし。どういう迷宮があるのかまでは知らないけど」
「なるほど」
この国はずいぶん平和みたいだし、おそらく周辺国と比べてもかなり国力があるほうなのだろう。
もしかしたら、魔石を大量に使った「都市を一撃で粉みじんにする大魔法」とかがあって、それが抑止力となって平和を実現してるのかもしれない。魔石を国が無尽蔵に買い取るなどという、ちょっと理屈に合わないことをやっているのだし、十分ありえる。
あるいは、魔石を材料にして貨幣を錬金しているとか……。
いや、これは実際ありえそうだな。
「……どうしたのマホ、変な顔して」
「んん~、ちょっと国が買い取った魔石を何に使ってるのか考えてた。フィオナは知ってる?」
「なんかいろいろなことに使ってるみたいよ。私はあんまり詳しくないけど」
いろいろはいろいろだろうな。膨大な量になるだろうし、「どれだけあっても良い」ものなのだろう。国家戦略物資というか、エネルギーそのものというか。
「ま、なんにせよ私たちのとこも、これと同じかそれ以上のポテンシャルはあるってことだから、自信になるね。水龍の魔石も売れてちょっとだけ金銭的な余裕もできたし」
石を購入した人の情報はもらえなかった。
オークションでは買い手の情報は秘匿されるもので、実際にあの会場にいるのも(本人がいる場合も当然あるにせよ)代理がほとんどだったらしい。
まあ、誰が買ったかなんてのはどうでもいいことだ。大事なのは、億単位の余裕ができたというところ。5万ゴルは次の支払い分としてプールしておくとしても、まだ3万ゴルくらいある。
めちゃくちゃ大雑把な感覚として、1万ゴルは1億円相当である。
お金の単位としてゴルより下のシルがあり、一般人は通常そっちを使っているのだとか。
要するに金貨、銀貨の単位みたいな感覚かもしれない。重さではなく、ちゃんと貨幣の価値が均一化されているのは、なかなか高度な文明と言えそう。やっぱり錬金術でお金作ってるのかな。
「そういえばフィオナはこの街に来たことあったんだよね。迷宮にも入った?」
「うん。私、この街で鑑定して、魔法の契約もやったからね。それでしばらく迷宮の入る修行というか、基礎を学んだ感じ」
「なるほど。やっぱり初心者にも優しい感じなの?」
「優しいってほどではないんじゃないかな。魔石の買い取りもメイザーズほどではないらしいけど、安いし……。中堅までいければ儲かるかもだけど、上層でパーティー組んで活動してる探索者なんて、ほとんど生活費を稼ぐくらいしかできないんじゃない?」
なるほどねぇ。
逆に言えば、上層でもその日暮らしができる程度には稼げるということだ。これは地味に大きい。田舎から出てきても命を張ればいちおう暮らしていけるし、自分自身が成長すれば稼げるようになるという夢も見られる。先輩探索者も多いし、ノウハウも十分だろう。
店も多いし、蘇生が可能な大型の寺院もある。
「ふ~む。けっこう充実してるってことか……」
「えっ、どうしてそういう感想になるの? 私、全然稼げないって話してなかったっけ」
「いやぁ。最初が赤字にならないで暮らしていけるだけで十分稼げることになると思うよ。特に庶民というか……あまりお金がない層は」
「そういうものかな……」
腐ってもフィオナは貴族だから、その辺りの感覚があまり庶民的ではないのかもしれない。
もちろん、私だってこの世界の庶民とは隔絶しているだろうが、歴史とか学んでいるからある程度はわかる。
「あっ、あれがルクヌヴィス寺院だよ。この街のは本当に立派なんだよなぁ」
「ふぇえええ。すごい。こりゃやってるね」
ダンジョン付きの寺院は領主が建てる必要がある。
建てるとルクヌヴィス教の高僧がやってきて、蘇生だの毒の治療だの解呪だのを(有料で)やってくれるようになる。ダンジョンには切っても切れない関係の施設である。
……である、のだが…………これは立派すぎるだろ。
まず背が高い。周りが精々2階建てか3階建てくらいの石造りの建物の中、寺院だけ20階建てくらいのサイズ。尖塔にはどうやら鐘が付いているらしい。鐘楼というやつかな。
キリスト教の大聖堂みたいなものだろうが、石造りのこれは、相当な金額が掛かっているはず。
これじゃ内装だって立派なのだろうし、それこそ50億とか100億とかそういう額が……。
「寺院をダンジョンに呼ぶのって、これを作んなきゃダメってこと……?」
「そうだよ? そうじゃないと蘇生までできる高僧は来てくれないから意味ないし」
「オーマイゴット! 神は死んだ!」
これの問題は金額だけの問題じゃないってこと。
この寺院建てるのに何年かかるのよって。1年とか2年じゃ無理でしょ。人力……いや、この世界の人間は魔法もスーパーパワーもあるかもだが、それにしたって5年くらいはかかるでしょ。
「こりゃダメだね。寺院はなしだわ。よっぽどダンジョンが軌道に乗ったら企画してもいいかな? くらいのものだね」
「自前では難しいよね。メリージェンとメイザーズは迷宮管理局が入ってるから折半のはずだけど」
「折半? こっちで全部お金を出すんじゃないんだ?」
「迷宮管理局を入れた場合はね。管理局が半分出してくれるらしいよ」
なるほど、管理局汚い。蘇生があるかないかは、実際のところ、かなり切実な問題だろう。
総合的に見ればダンジョンでの儲けはほぼ全部「迷宮管理局」と「ルクヌヴィス寺院」に吸い取られることになる。寺院建設でのマイナスを取り返すのはかなり時間がかかるだろう。
とはいえ、その代わりというか、人口が増えることで副次的なプラス効果が生まれる。自領に大都市があるというのは大きいはずだ。
パパさんは欲張っちゃったんだなぁ……。
◇◆◆◆◇
「あ、せっかくだからちょっと寄ってこうか? 寺院で位階を調べられるから」
「位階ってなんだっけ……?」
「位階は位階だよ。迷宮順化の度合いを数字で表したものだって、説明しなかったっけ?」
「レベルのことか」
「そう、それ」
こちとら最下層の魔物を何体も倒しているのだ。
レッドドラゴンを倒した時は感じなかったが、麻痺草の時も、トッケイの時も、水龍の時も、ドッペルの時もパワーアップした感覚があった。
今の私は、地球にいたころと比べればかなりスーパーウーマンになっているはず。
「マホも測ってみようよ」
「んにゃ、私はやめとくよ」
「なんで!」
「正しく表示されるとは限らないじゃん。私、異世界人だし。あの転移碑の表示見たでしょ?」
「あ、あ~。それもそうか。そうだね」
どうせ「うわぁ~! こいつレベル
私は詳しいんだ。
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