第44話 獣人の少年奴隷だ!
「次なる品はこちら!」
屈強な男性アシスタント2名が「次なる商品」を運んでくる。
それは鎖に繋がれた獣人の少年だった。
銀色の髪はサラサラで年齢の若さを感じさせるが、こんな場所にあってさえ眼光は鋭く、射殺さんばかりにオークショニアをにらみつけている。
だけど、ピンと立った耳はわずかに震えていて、それがちょっとした強がりであることが見て取れた。
「あれって……狼の獣人の子ども……? っていうか、人? え、えええ。人身売買もやってるの? しかも児童売買! ヤバ!」
「奴隷だね。なんかわけありっぽいけど」
「奴隷……奴隷かぁ……」
ファンタジーというか、ちょっと野蛮な世界だもんな。そりゃ奴隷だってあり得るか。地球にだって歴史上いくらでもあったものだし。
私は貴族の娘であるフィオナと行動を共にしているから、ファンタジー世界の陰の部分というか、文明が幼いが故のアレコレをほとんど目にせず済んでいるけれど、どちらかというとこっちが現実なのだ。
大きな鉄の重りに繋がれた鎖が足首に嵌められている。
手錠。首輪。
暴れられないように、かなり厳重に動きを封じている。獣人とはいえ少年に対するものとしては、ちょっと過剰なほど。
隣のフィオナを見る。
私はホームセンターごとこの世界に来たけれど、あの時、あの場所で私を呼んだのが、――たとえば探索者のおじさんとかだったら。
奴隷制とかある世界で、なんの力もない女子高生である私と、死を覚悟したおじさん。
う~ん。
どう考えてもエロマンガみたいな展開になっていたに違いない。仮に最下層から脱出できたとしても、その後も奴隷みたいにご利用されてたのは間違いないだろうな。
別におじさんじゃなくても、男だったら似たようなものだっただろう。特別な力のある者だけが探索者になる世界で、私はその力がない一般人にすぎないのだ。
抵抗なんてできるはずもない。
「……フィオナで良かったよ、本当に」
「えっ、えっ、なに急に」
「いや、私は運が良かったなって」
フィオナは同い年の女の子で、なおかつ貴族の娘だ。
性格もいいし、可愛いし、強いし、常識的だし、権力だってちょっとある。
私が今こんな風にノホホンとしていられるのは、完全にフィオナのおかげだ。
そんなことを考えている間にも、オークショニアは「商品」の説明を続けていた。
どうも、彼はここ「メリージェン」で活動していた有名な探索者だったらしい。銀狼族という種族で、部族の次代の長として、一党を率いていたが、下層の罠にひっかかりパーティーメンバー全員が呪われてしまい、その解呪費用のために自分自身を身売りしたのだとか。
年齢はかなり若いというか、まだ13歳。
獣人は身体の成長が早い関係で8歳の時からここで活動しているのだとか。
「呪いの解呪ってそんなに高いの?」
「寺院でやるとね……。たしか、解呪は蘇生と同額だから、パーティーメンバー全員となると、まあ…………普通は払えないかな。よほどたくさん貯金してたなら別だけど、探索者なんてお金があったらすぐ使っちゃう人ばっかだし」
そりゃ、命の危険しかない稼業だし、どうしたって享楽的な暮らしにならざるを得ないだろう。引退して店でもやるとか、そういう未来の夢がある人なら別なのかもしれないけど。
「生き返らせるのと同額……。ずいぶん取るのね」
「払えるか払えないかのギリギリを見極めたような額を提示してくるからね。だから、死ぬのはかなりリスクあるよ」
そりゃ死ぬのはリスクそのものだよ。価値観すごいな。
「でも、あの子すごいよ。2パーティーを取り仕切ってた頭目で、15層で活動してたって」
「それってすごいの?」
「すごいなんてもんじゃないよ。普通、10層を越えた先に行ける探索者を上級って呼ぶんだけど、それを5層も更新してるってことだから」
10層で上級なのか。うちの迷宮ってマジで巨大だったんだなぁ。
そりゃパパさんも張り切って借金もするよ。
獣人は成長が早く、若い期間が長いらしい。大人になってからゆっくりと成熟していき、ピークになるのが30歳ごろ。そのかわり、寿命はヒト族よりも短いとかなんとか。
それでも13歳でトップ探索者のリーダーというのは凄いな。人間ではありえないスピード感だ。
「んで、奴隷って買われたらどうなるの?」
どれほど強く実績があろうが奴隷となれば、自由はないだろう。
そこまではわかるが、それ以上のことはよくわからない。
女の奴隷なら愉快なことにはならないとすぐに想像できるが、男の場合はどうだろう。
「ん~、たぶん剣闘士にさせられるんじゃないかな。護衛用には……使わないだろうし」
「剣闘士? なんで護衛はダメなの?」
「この国のお金持ちは側仕えに獣人は使わないからね。彼の場合、ほら、たぶん従順でもないだろうし」
そうなのかな。
そんなに強そうには見えないけど、上級探索者なら実際は強いんだろうし、良さそうだけど。
眼光は確かに鋭いが、パーティーメンバーの為にリーダーである自分が身売りするなんて普通はできない。
本質的に優しい子なんじゃないかな。
「10000!」
「14000!」
「16000!」
競りがスタートする。
1万ゴルがだいたいの感覚として1億円くらい。
人間の価格として高いのか安いのか、倫理的な意味ではなんとも言えないが、少なくとも買い手は「元が取れる」と踏んで入札しているはず。
剣闘士興業が地球でいうところの競馬だとすると、競走馬の値段と同じくらいの感覚なんだろうか。
馬と比べるのもどうかと思うが、売り買いしてる人たちからすれば、当たらずとも遠からずといったところだろう。
「これって安いの? 高いの?」
「う、う~ん? 私も奴隷の値段なんてよく知らないしなぁ。でも、安くはないと思うよ。上級探索者になれるのって、本当に一握りだし」
「フィオナは中級なんだっけ?」
「今はね。パーティーメンバーに恵まれれば上級になれてた……はず」
フィオナはそう言うが、御禁制の草に頼るようなメンタルで上級になれてたかどうか……正直怪しいところだと私は思う。
能力としては、戦士の加護と、魔法の才能の両方があるのはかなり珍しいとかで、ゲームでいうところの上級職みたいなもんなのかもしれないけど。
「ふぅ~む。ねぇ、フィオナ、エヴァンスさん。さっきの魔石ってもう売れたってことでいいんだよね? お金に余裕あるなら、あの獣人の子、落札してもいい?」
「うぇええええ、なんで⁉」
「奴隷なら秘密厳守してくれるんでしょ? 私のとこなら待遇も悪くないし、強いなら私やフィオナの護衛にもなるし。なにより人手が欲しいんだよ」
我ながらグッドアイデア。
奴隷を買うなんてちょっとゾッとしないけど、私が落札しなかったら剣闘士にさせられて、殺し合いとかさせられるみたいだし、だったら私のとこで従業員やってたほうがマシだろう。
なにより、あんな小さい子が奴隷になって戦わされるなんて、普通に可愛そうじゃない?
あと、うちには犬用のシャンプーもたくさんあります。
エヴァンスさんにも確認をとって、三万までならと許可が出た。
「20000!」
「おおっと、ここで思わぬ伏兵の登場だぁ! 36番が20000で入札! 21000ないか、21000!」
けっこうすでに一杯一杯の金額だったようで、22000で落札できた。
裏切られなそうな労働力兼護衛をゲットだぜ!
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