第43話 水龍の魔石とオークション!

 オークション会場に到着。


 迷宮街でも大通り、迷宮の近くにあるオークション会場は想像よりも小さいが、なかなかお金の掛かってそうな建物で、出品するには事前に商品を登録する。

 開催は週に一回だが、運良く今日が開催日で滑り込みで参加することができた。


 ダーマ伯爵の名義で水龍から出た水色の魔石を出品する。

 代々伝わる家宝として出品するので、名義は大事だ。パパさんにわざわざ証明書まで書いて貰った。……まあ、事実上の偽造証書だが、大丈夫だろう。

 ダーマ領から出たものなのは事実だし……。

 商品によっては、断られることもあるらしいのだが、無事に出品することができた。


 一人で三品まで出品できるというので、なんかホームセンターの物も出そうかと思ったけど、やめておいた。フィオナにこっちの世界で価値がありそうなものを選定してもらったけど、なんか微妙なんだよね。時間を掛けてセールストークをすれば売れるかもだけど、オークションで瞬間的に高値を出すには新しすぎるというか……どうしても珍品枠の商品になるというか……。


 登録を終えて、案内された席に座る。会場はまあまあ広いが、テーブルは狭くけっこう会場パンパンに人が詰まっている感じ。盛況でなによりだ。


「さて、あとは神のみぞ知る……だね。首尾良くいけばいいけど」

「うう~……ドキドキする」


 フィオナが心臓を押さえて鞄からタバコを取り出す。

 慣れた手つきで一本出して、魔法で火を付けた。


「おおっとぉ。いつの間にタバコを調達してたの、フィオナ」

「えっ? えへへ、けっこう前っていうか、ダンジョン脱出する前からコッソリ……ね」


 紫煙をくゆらせながらバツが悪そうに笑う。

 この世界ではわりとタバコは一般的で、御禁制のアレ以外にもいろいろ種類があるらしい。

 フィオナによると、ホームセンターのタバコは品質が安定していていつもちゃんと美味しいとのこと。ダンジョンやるよりタバコと塩でも売ってたほうが安定して儲かりそうだな……。


 ていうか、この会場喫煙者率高すぎ! 灰皿が完備されてたから妙だな……とは思ったけどさぁ。あっという間にモクモクだよ!


 気付いたらリカルドさんまで吸い始めているし。さてはこいつがフィオナにタバコを教えたな?


「それで、参加者ってどういう人が多いの?」


 見た感じだとよくわからない。

 男も女もいるし、服装も種族も様々だ。


「やっぱり貴族が多いんじゃないかな。あとはベテラン探索者。もちろん、商人もいると思う。ただ見に来てるだけの人もいるよ」

「お金持ちいるかな」

「メリージェンのオークションは有名だからね。王都から来てる人なんかもいるらしいし、大丈夫でしょ。……多分」


 2本目のタバコに火を付けながら、楽観的なんだか心配性なんだかよくわからないフィオナ。

 水龍の魔石は、品を見せたらオークショニアも高額になると太鼓判を押してくれたし、私も大丈夫だとは思うけど、結局は異世界のことだからな。


「通常あのサイズの石ならば、王家も白金貨を100枚出すはず。さらに、あれは純度も高くくすみのない濃紺で見た目も美しい。オークショニアも今日の目玉にするとおっしゃってましたから、期待して良いと思います」

「白金貨100枚ですか……」


 エヴァンスさんによると、白金貨というのは、王家が高額取引用に特別鋳造している白い金貨で、実際には金ではなく別の希少金属で作られた貨幣らしい。両替は王家に近しい商家か、王城へ直接持ち込む必要があるとかなんとか。一枚で金貨500枚分の価値なのだとか。

 というと金貨50000枚か。返済額が金貨50000枚くらいのはずだから、相場くらいで売れればさしあたりOKということかしら。


「あっ、始まりますよ」


 会場はけっこう薄暗いのだが、ステージの上は照明が当たっているように明るい。

 フィオナに訊くと、ライトの魔術か魔導具を使っているとのこと。魔法けっこう万能だな。


「みなさま、本日はメリージェン・オークションへのご参加、まことにありがとうございます! それでは、さっそく初めてまいりましょう! 一品目の商品は、こちら!」


 最初の商品は斧だった。メリージェン大迷宮から出た品でマジックアイテムらしい。

 金額もこっちのお金の価値についてまだイマイチよくわかってないが、かなり高額で落札されたようだ。


「あれ、メリージェンの15層から出た品だって。落札した人はたぶん貴族じゃないかな」

「貴族が斧なんか買うの」

「自分のとこの兵士に持たせるんじゃない?」


 見た目よりも実用性が重視されるということだろうか。

 私もダンジョンでは斧を持っているけど、あくまでそれはホームセンターにまともな武器が斧しかなかったからである。剣があれば剣を持ってたよ。


 ◇◆◆◆◇


 オークションは進む。


 やはりダンジョン産の品物が多い。あとは、絵とか、彫刻なんかの芸術品。宝石、アクセサリー類など。

 そして、いよいよその時が来た。


「次なる品は本日のハイライト! さるダーマ伯爵家に代々伝わる魔石で、水のドラゴンを討伐して得たとされる魔結晶です!」


 アシスタントの女性が恭しく商品である青い石を運んでくると、会場からどよめきが生まれた。

 私たちが出した水龍の魔石だ。一つ前に出てきた魔石(一般人の年収くらいの額で落札された)と比べても、巨大さと輝きの深さが段違いだ。

 勝ったな。


「こちらの品は、王家秘蔵の宝玉をも超えるのではというサイズと深みを持つ逸品であり、こうして表に出てくるのは史上初! 魔石としても優秀で、内包された魔力は優に80万マナを超えております。これは王国の歴史を紐解いても類を見ない高純度の結晶! ダーマ伯爵領現当主ファーガス様直筆の証明書および、当オークションによる認定鑑定書をお付けします!」


 オークショニアに説明関係はある程度任せたが、すごいね。王家秘蔵の石より上とか言っちゃって大丈夫かな……。大丈夫か。実際、最下層ボスの石には違いないんだし。

 会場はかなりどよめいている。


「あんなものが出品されるなんて、事前情報になかったぞ!」

「す……すごい……!」

「ダーマ伯爵があれほどの宝玉を持っていたとは……!」


 とかなんとか、ほうぼうから声が聞こえてくる。

 これはマジで期待できそう。


「それでは、こちらは6000ゴルからスタートになります!」

「7000!」

「9000!」

「11000!」


 通貨単位はゴルで、私たちの借金……すぐに支払わなければならない分は50000ゴル。

 6000スタートでその額までいくのか、かなり不安だ。

 何人かの金持ちが競り合いをしているが、それはそれとして石一つの値段としてはどうなんだろう。エネルギー結晶だから、宝飾品としての価値以上に単純に実用品としての側面もある。

 そういう意味では、ただの鉱物である宝石なんかよりもより高価であるのかもしれないが、この世界での魔石の価値がよくわからないからな。


「30000!」

「ええい! 40000!」

「50000!」

「60000!」


 入札額が更新されるたびに、どよめき歓声が上がる。

 万単位で額が釣り上がっていく。


「え、え、あれ? 目標金額余裕で超えてる……よね?」

「超えてるね……」


 フィオナはもちろんのこと、エヴァンスさんも、騎士のリカルドさんも喜ぶより先に、驚きがきたのか唖然としている。

 私たちもあの石の価値を正しく理解していなかったということか。


「100000!」

「おおっとォ! ついに10万が出ました! 8番、10万! さあ、他の人たちはいいですか? 二度と手に入らない品です。後悔しませんよう」

「ぬぅうううう、105000!」

「110000!」


 8番の紳士が余裕の高値更新。

 ていうか、お釣りが来るほどの額になっちゃったんですけど……。

 っていう間にも、さらに額は釣り上がっていく。


「さあさあ、14万だ! 14万! 14万が出ました! これで決着か?」

「141000だ!」

「142000」

「ぐぅうう……143000」

「145000だ!」


 だいたい2人に絞られた。いや、すでにすぐ支払う分を支払っても、けっこうな額のおつりが来るんですが……。その後も1000ずつの攻防が続くが――


「15万出ました! 8番、15万です! 15万! 151000いないか。151000」


 オークショニアが回りを見回す。

 沈黙。

 8番と競っていた男も、さすがに諦めたようだ。


「では、15万! 15万ゴルで8番が落札です!」


 カンカーンと木槌が打ち鳴らされる。会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


 私たちもつられて拍手したが、15万ゴルってどんな額? 


 すぐに返済しなきゃならない額が5万ゴルって話だったけど、なんか想像を遥かに超えた金額になってしまった。

 凄まじい金額が動いたことで、会場のボルテージもかなり上がっている。


「や、やったね、おめでとう。フィオナ」

「うん……。っていうか、全然実感ないんだけど。15万ゴルって言ってた……よね?」

「たぶん……?」


 実際のところ、億レベルの金額とか実感湧かないんですけど。本当にそんな高値で落札された……? エヴァンスさんも、リカルドさんも呆然としてるんですけど……。


「えっと、これ間違いないですよね? エヴァンスさん?」


 隣のエヴァンスさんは声を掛けたら再起動した。


「驚きました……。私も魔石の価値にはそこまで詳しくなかったもので……。魔力の含有量だけで見れば勝算は十分ある……くらいの感覚でいたのですが、まさかこんな額になるなんて」

「とりあえずの借金は返せそうです?」

「ええ、これなら少なくとも今年1年は問題ないでしょう」

「あ、この額でも1年なんだ」


 ああ、世知辛き巨額の借金。

 総額50万ゴルも借りたらしいから、仕方が無い……。

 とはいえ、1年もあればダンジョンも軌道に乗るはずだ。この街の盛況さを見るにダンジョン自体の需要は本当に高そうだし。


 私たちが、思わぬ高額落札に浮かれている間にもオークションは続いていく。



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