第42話 異世界人は魔力を視る!
次の日の早朝。
まだ日も出ていない時間だが、私たちはオークションが開催されている迷宮都市『メリージェン』へ向かうことにした。
持ち物は一際巨大なレッドドラゴンの魔石――のつもりだったのだが、借金の返済くらいの額なら水龍のものでも十分だろうということになり、レッドドラゴンのものは温存することになった。
なんでも、オークションは落札価格が競る人の財力で決定してしまうので、レッドドラゴンの魔石は本来の価値のずっと低い価格で落札されてしまうだろうとのこと。
まあ、言いたいことはわかる。
この世界での魔石の価値はよくわかりませんが……。
「じゃあ、セーレお願い」
『お願い、とは?』
「メリージェンまでひとっ飛びで」
『行ったことない場所には行けませんが』
「なんですと……⁉ ダンジョンの時は1階までひとっ飛びしてたじゃない?」
『あれはレディマホとの繋がりを追っただけですので』
「OH……」
いきなり当てが外れてしまった。
まいったね。
『ですが、見えている場所になら移動できます』
「マジ? じゃあ、いけるじゃん。セーレって空飛べるんでしょ?」
『私ではなくこの子が』
そう言って、羽が生えた白馬の首を撫でる。
「じゃあ、余裕だね」
セーレがいつも乗っている馬は、空飛ぶ馬、ペガサスだ。
空から空の直線を転移していけば、数回の転移で辿り着けるだろう。
事実上、距離なんて関係ないってことだ。セーレ便利すぎる。
「じゃあ、フィオナ。セーレと2人乗りしてメリージェンまで行ってきて」
「え? は? わ、私だけで⁉」
「うん。セーレを案内したげて」
「な、なんで⁉ マホは?」
「私は後から行く……っていうか、そんな顔しないでよ」
セーレと2人で行けと言われたのがよほど嫌だったのか、フィオナは泣き出さんばかりだ。
これには同行するために一緒に来ているエヴァンスさんも心配顔である。
「セーレは一度行った場所になら転移できるって言ってたでしょ? だから、最初はフィオナが案内してメリージェンまで行ってくれれば、あとはこっちにまた転移で戻ってきて、私ごと荷物とエヴァンスさんも回収してもらえばいいってわけよ。メリージェンに行ったことあるの、フィオナだけなんだし」
「あ、そういうこと……」
まさかセーレと2人でオークションに参加しろと言われてると思ったのか?
いくら人手がないったって、そんな鬼畜ではないよ。というか、私も異世界オークションに参加したいし!
◇◆◆◆◇
というわけで、首尾良く迷宮街メリージェンに到着。
瞬間転移のこのチートぶりよ……。
街外れの人目がない場所に転移したんだが、大通りに出るとムワッといろんな食べ物をごちゃ混ぜにしたような香りが鼻孔をくすぐる。
簡単につまめるものを出す屋台や、酒場、武器や探索用の道具を売る店、木賃宿なんかが所狭しと通りに連なっている。
人も多い。
ガチャガチャと甲冑の擦れる音を響かせた探索者の一党。商家の丁稚。どこかへ急いでいる赤毛の男。のんびりと屋台で注文するオバさん。通り行く男達に流し目を送る女性。大きい人から小さい人、髪色も多様。人種の坩堝だ。
なるほど、ダーマ領が廃れてるっていうの、すごくわかる。
日本の都市と大差ないくらい活気があるわ。
荷物は私の魔法のバッグに入れてあるから手ぶらに近い。実際チートですよ、魔法のバッグは。やっぱり、このバッグをオークションで出せばいいんじゃないの? って言ったら、またフィオナが怒ったのでこの話題は禁止だ。
まあ、魔石なんて私たちが持っていてもただの綺麗な石でしかないけど、魔法のバッグは取り返しが付かないものだ。フィオナの言い分もわかる。
私だって、これを売らずにどうにかできれば、そのほうが良いとは思っているよ。ただ、性格として一番確実な手段を選びたくなるというだけで……。
オークション参加の段取りはフィオナとエヴァンスさんが全部やってくれたので、私はフラフラと街の様子をチェックしてメモを取ったりしながら付いていくだけ。
ペガサスから降りたセーレも同行してるんだけど、こいつが目立って仕方が無いので、フード付きジャンパー(ホームセンターの農作業服売り場の品。3980円)を着せた。
まあそれでもかなりジロジロと戦慄したような顔で見られてたので、イケメンはオーラからして違うのかもしれない。
「わかってはいたけど、すごく盛況だねぇ。ん? あれは?」
……猫……猫耳少女が二足歩行で歩いてる……。
パッと見、人間だけど、小学生高学年くらいのサイズで、ちょっとした革鎧なんか装備しちゃって、背中に武器なんか背負っちゃってるんですけど……!
「
「か……かわいい……」
この世界に来て二番目にファンタジーを感じたよ(一番はドラゴン見た時)……!
私が感動して猫獣人(リンクスと呼ばれているらしい)を目で追っていると、フィオナが呆れたように言う。
「マホのとこにも亜人いるんじゃないの?」
「いないよ!」
「そうなんだ……。あんなに何種類も身体用の洗剤があるから、てっきり」
てっきりとは? 確かにフィオナはシャンプー類の多さにビビってたけど、あれは全部人間用だし、ペット用も別にあるけど、あれらはあくまでペット用――厳密には犬猫用だ。
「う~ん、それにしてもけっこう多種多様な人種がいらっしゃるのねぇ……」
「迷宮街だからね。うちもダンジョンが見つかったばっかのころは、すごかったんだよ? ダメだとわかるといなくなるのも早かったけどさ」
「亜人にはプロ探索者が多いってことか」
だとすると、うちに引っ張れる可能性も逆に高いってことかな。
獣人はウェルカムだよ。猫用シャンプーで丸洗いだってやっちゃうよ。いや、猫は逆に嫌がるのかな。
「しかし、思ってたよりも多民族国家だったんだねぇ。これならセーレなんて可愛いもんですわ。なんならペガサスもOKでしょ」
「え、ええええ? マホォ。あの人はけっこう……いや、かなり異質だよ……? なんで同じに見えてるのかわかんないけど」
「いやこっちこそなんで? じゃあ、私はどんな風に見えてるの?」
「マホはマホだけど、あの人はなんていうか、こう……黒くてトゲトゲしてるでしょ?」
黒くてトゲトゲ……? むしろ薄らボンヤリしてる節すらあるけど……。
「ふぅむ。魔力的なものが視覚的に見えるってことなのかな。私は魔力のことわからないしな」
チラチラとセーレを見る人が多いな~とは思ってたけど、イケメンだからってわけじゃないらしい。というか、魔力的なものを視覚的に捉えてるとなると、魔神はそりゃヤバげに見えるだろうな。抑止力になりそうだしいっか。
歩きながらフィオナに亜人についても説明してもらった。
彼らは国を持つ種族もいれば、小さな集落で身を寄せ合って暮らす種族もいる。もちろん、人間に混じって探索者になったり店をやったりして暮らしているものもいるのだとか。
で、この国は人間の王が治める国なので、どうしても人間の割合が多いけど、別の場所にいけばまたいろいろ違ってくるらしい。
まあ、なんとも、ファンタジーという感じだ。
ちなみに、差別とかもやっぱりちょっとあるのだとか。
「逆に、よく差別が『ちょっと』で済んでるね?」
「違うのは見た目だけだからね。逆に言うとその……セーレさんは見た目は私たちと似てるけど、やっぱり異質だから……その、すごく目立つよ?」
「ふぅん。外見と魔力を見ている感じなのか」
「見える……って言うと語弊があるかもだけどね」
私には魔法の才能がないからか、それとも単純に異世界人だからか、その違和感が理解できない。
地球人に例えると、見た目は同じだけど血が青い奴みたいな感じなんだろうか。違うか。
「じゃあ、セーレは引っ込めといたほうがいい?」
「うん……できれば。なんかトラブルになりそうだし」
そこまでの異物感だったのか。
フィオナがセーレに対しては滅茶苦茶にビビり散らかすの、単にイケメンにビビってるのかと思ってたけど、全然違ったね。
というわけで、セーレはホームセンターに帰還させて(帰りは強く念じて呼べば迎えに来てくれるらしい)、私とフィオナ、エヴァンスさんとリカルドさんという護衛騎士だけでオークション会場へ向かった。
騎士のリカルドさんはフィオナの家で古くから仕えている人で、フィオナからすると親戚のおじさんみたいな感覚の人なのだそうだ。
ダンジョンに入る前も、剣を教えてもらったりしたんだそう。
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