第40話 ダーマ領は平和な小規模領地!

 さて。


 私たちは、ダンジョンから脱出できた日にフィオナのパパさんであるダーマ伯爵に会った。そして、ダンジョン経営を任せてもらうことになり、再オープンの準備を進めているわけだが、実は領地経営の実際を取り仕切っている人にはまだ会っていなかったりする。


 再オープンの準備に領地の財産はほとんど使わず、人も借りていないからここまでは問題なかったが、迷宮街作りは、私の趣味――ではなく、歴としたダーマ領としてのオフィシャルな計画である。私は現場指揮者としてそれを請け負っているにすぎない。


 実際の運用には「公」を巻き込んでいく必要がある。


「んで、その家令のエヴァンスさんってどんな人なの?」

「う~ん、実は私もあんまし話したことあるわけじゃないんだよね」

「そうなの?」

「たまに家には来るけど、別に話す用事とかないじゃない? さすがに心配かけたから、一度は顔出しに行ったけどさ」


 まあ、そういうものかもしれない。

 パパさんの会社の部下……みたいなもんだろうしな。エヴァンスさんからすれば、フィオナは上司の娘か? そりゃ親しげに話したりはしないか?


「顔出しに行ってどうだったの?」

「けっこう泣かれた。思ってたより心配かけてたみたいでさ。家臣団みんなに囲まれちゃって。ははは」


 ははは、じゃないよ。

 けっこう愛されてんじゃん、フィオナ。


「そういや、パパさんが領地経営の指揮してるのかと思ったけど、そうでもない感じなんだ?」

「お父様は大きな方針を決めたりとか、そういうのしてるんだと思う。詳しい事はわかんないけど……」


 まあ、安定した領地の経営なんてそんなもんかもしれない。

 衣食住を安定供給することが最大のミッションで、第一次産業が99%という感じなんだろうし。

 まあ、そんな中でダンジョンという黒船が突然やってきて大パニックになったあげく失敗したってのが今回の話ではあるんだろうが……。

 フィオナが領地経営に明るくないのはこれも当然で、彼女は三女。彼女は本来ならどっかに嫁に行くのが決まっているくらいのもので、領地のことなんて知る必要がなかったのだ。


 ダンジョンから出て、私はフィオナと二人で街のほうへ向かった。

 セーレは留守番。ちなみに、ダンジョンマスコットとして売り出す予定のポチタマカイザーは地下でお留守番だ。

 ダンジョンの入り口はエグめの立ち入り禁止措置を施してある。

 セーレに頼んで巨大な岩で入り口を塞いであるのだ。これを移動できるのは物体ごと瞬間移動が可能なセーレくらいのものだろう。


「街までちょっと距離あるのが地味に辛いね」

「そう? たいした距離じゃないでしょ?」

「運動だと思えばね。でも今みたいに時間ない時だとちょっと。自動車トラック使っていい?」

「ダメ」


 ホームセンターにはトラックが2台あるので、あれを使えば街までの距離は一気に縮まる。

 でもさすがにあんなものを使うのは、現地人にとっては驚天動地すぎるってものか?

 いずれはあれも使ってしまおうと思っているが、まだ時期尚早か。


「あ、でもアレなら大丈夫かも。自転車だっけ?」

「自転車……自転車かぁ……。試してみてもいいけど……。この道の舗装がねぇ……」

「石畳のこと? これ、めちゃくちゃお金かかったみたいよ」

「だろうね。重機も自動車もないのによくこんなもん作ったなって驚くよ」


 ダンジョンから街まで続く通りは馬車2台がすれ違えるかどうか程度の幅だが、石畳で舗装されている。ダンジョン出現に沸いた頃、巨額(借りた金だよ!)を投じて整備したらしいのだが……徒歩にはいいけど、自転車にはどうだろうな……という感じ。

 いや、雨の後でもぬかるまないし、土煙も出ないし、良いんだよ? すごく良い。歩くには本当に良い。

 ……でも自転車で走ると絶対ガッタガタなんだよなぁ、これ。


「ま、とりあえず移動のことは追々考えていこうか」


 そんなことを話ながら街に入り、街の中心部近くにある市庁舎へ。

 私は初めて来たんだけど、騎士の詰め所も併設されているようだ。


「騎士って何人くらいいるの?」


 道すがらフィオナに訊く。


「ん~? どうだろ。全部で30人とかじゃないかな」

「あ、そんなもんなんだ」


 思ってたより少ない。兵というよりは警察くらいの感覚なのかしら。


「そりゃ人雇うのもお金かかるし、戦士の才能がある人はダンジョン行っちゃうから雇うのは難しいんだって」

「名誉職として大人気ってわけでもないんだ?」

「うちみたいな小さな家に仕えてもね……。ダンジョンが出来る前にはもうちょっと人も雇えてたんだけど」

「なかなか厳しそうな状況だね……」


 まー、確かにそういうものかもしれない。

 地球では個人の武力の使い道ってそう多くなくて、古今東西、結局は権力と結びつくことがほとんどなんだけど、ダンジョンがあるこの世界は違う。

 自分自身の力(物理)だけで、いくらでも稼げてしまうのだ。

 まあ、だからこそフィオナも探索者をやってたんだろうし。

 ちなみに、第6層で活動してたフィオナでも、一般的な職人の給金の二倍くらいは稼げている計算だったらしい。それでだいたい騎士の給金と同等程度。なるほど、それなら人によっては騎士なんかより探索者を選ぶ……かもしれない。なんたって、窮屈そうな騎士と違って探索者は自由だしな。


「んで、騎士って普段なんの仕事してんの?」

「治安維持とか、検地に同行したりとか、いざというときの兵役とか? もちろん護衛の仕事とかもあるし、戦闘力が必要な場面ってけっこうあるから。何にもないときは訓練もしてるし。あ、持ち回りでうちにも3人くらい詰めてるよ?」

「領主一家の護衛として?」

「そう。あとお父様の護衛が二人」

「やっぱ護衛の仕事が多くなるのか。いや、この場合は抑止力かな? 騎士って見た目ゴツい人が多いんだろうし」

「見た目はいろいろだよ。マホってけっこう偏見あるよね」

「常識の違いと言って欲しいわ」


 騎士団員ってのはね、8割はゴリラで、なぜか美女が一人いて、あとなぜか一般団員はゴリラばっかなのに団長は細身のスーパーイケメンと相場は決まってるのよ! あと従騎士スクワイアの少年。

 ……すまねぇ。これ偏見だわ。

 ……まあ、とにかく30名程度の武官だけで領地を回してるってことだ。


 普通に考えれば、武力がなきゃ権力を維持なんかできないわけだし、むしろよく30人程度で回ってるよ。平和な証拠だな。


 ただ、領主からしてそこまで派手な暮らしができているわけじゃない状況で、雇われの騎士なんかは名誉はあれど、普通の仕事の範疇に収まる感じかもしれない。

 武士は食わねど高楊枝みたいな……。ちょっと違うか。


 いずれにせよ、この領地の運営そのものについても、ある程度は知っておく必要がありそうだ。

 街が栄えれば、警察力の強化も必要になる。ダンジョンをベースに街が栄えるってことは、腕自慢の荒くれ者が大挙して押し寄せるのと同義なのだし。

 こっちも同時進行でやっていくつもりでいたほうが良いだろうな。



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