第3章
第39話 やっぱり人手が足りない!
「人手がぜんっぜん足りない!」
1階層の改装を進めながら叫ぶ。
ダンジョンリノベーションのための資材はいくらでもあるし、少人数でもなんとかなると考えていた時期が私にもありました。
私、
最初に上層階の地図を作成。さしあたりの分として6階層までの作成が終わり、清書して大量にコピーしてストック。
ここまでは順調だったんだ。
「ダンジョン、広すぎるんだよ。これじゃあ安全を担保できるレベルにまで改装する前に期日が来ちゃうね」
「だから無茶だって言ったじゃん! 『来ちゃうね』じゃないでしょ!」
「そうは言うけどフィオナ。なんとかなると思ったんだよ」
なんたってホームセンターの資材は無限に使い放題。
転移魔法が得意なセーレがいれば、搬出搬入もお茶の子さいさい。予定通りの工事をサクサク進めていくだけ――のはずだったんだけど……。
現在やっているのはスライム階層こと第1層の安全通路の作成。
そう。まだ第1層をやっているのである。
残り2週間くらいしかないのに!
2層までの最短ルート以外の分岐をベニヤ合板で塞いで回ってるんだけど、これが意外と大変なのだ。
ホームセンターで売っている規格の合板は、910×1820mmだが、当然これだけでは天井までの高さには足りない。ちょうどいいサイズに切ったり貼ったりして、通路を完全に塞ぐ必要がある。そうしないとスライムが通路に侵入しちゃうからね。壁でキッチリ塞いだら、今度はコーキング材で隙間を埋める作業もある。
さらに、何カ所かは扉を作って任意で出入りできるようにする必要がある。魔法使いにとっては、第1層は悪くない(良くもないが)狩り場なのだから。
このダンジョンの微妙なところは、第1層にいる魔物が完全物理耐性(本当に
その代わり、魔法にはめちゃ弱くて一番弱い攻撃魔法を当てるだけで倒せるのだが、その魔法が曲者。異世界人なら誰にでもカジュアルに使える力ではなく、神様との契約に成功した人にしか使えない力なのだという。
このダンジョンで活動しているアルス君とティナちゃんも魔法使いで、一度遠目に見たことがあるが、何もないところから炎の槍が出現して敵を攻撃する様は、なかなかファンタジックで良かった。
ちなみにフィオナは、アルス君たちが使うような攻撃魔法は使えないらしい。
契約する神によって使える魔法が違うとかなんとか。この世界の「神」ってなんなんだろうな。
とにかく、材料を切り分けてきて現場に設置してと、けっこう重労働なのだ。
「もう2階層までだけでいいんじゃない? 十分だと思うよ?」
フィオナが自分の身長よりも高さのある合板を、軽々と運びながら言う。
彼女は『戦士の加護』とかいうのを授かっているとかで、私よりも力持ちだ。
そうでなくても
魔神のセーレも手伝ってくれているから、パワー的な部分では不足なくサクサクと進んではいるのだが、それでもマンパワーの不足は如何ともしがたい。
丸一日掛けてまだ第1層の階層が終わっていないという体たらくである。
「このままじゃどのみち間に合わないでしょ」
「いやぁ、フィオナ。そう言うけど、これからダンジョンに人を呼び込むわけじゃん? つまり、かつてこの大迷宮に人がわんさか押し寄せた時と同じように、ガチガチの初心者が大量に来るわけなのよ。2層は当然として、3階層も4階層もそれぞれにクリティカルにヤバいとこあるし。対策しておかないと」
「地図と魔物の情報出すだけで十分だと思うんだけどなぁ……」
「そういう注意書きを読める人間ばっかりじゃないんだよ。我々の想像を遥かに超える無鉄砲は実在するんだから」
「ムテッポウってのがなんなのかわからないけど、確かにね。ここも最初のころはひどかったもんなぁ……」
ダンジョン発生に沸いた頃。なんの情報も持たず、装備もそこらへんで拾ってきた木の棒オンリーみたいな若者が、何人もスライムやゴブリンの餌食になったらしい。
私が手を入れる以上、そんなことは絶対に許さない。
私たちが目指すのは「安全第一、稼げるダンジョン」なんだから。
「ダンジョンの外もどんどん再開発してかなきゃだしねぇ」
外のほうは私に化けたドッペルゲンガーのドッピーに任せてある。
私の姿だから何も問題はないだろうけど、ダンジョンの改装とは違ってやることが多い。
あっちはあっちでかなり大変だろう。
再開発用の資材はホームセンターの物を、夜中の間に山積みにしておいた(運んだのはセーレだが)。
現地の人たちに現物支給――厳密には食料と酒――で働いてもらっている。建材は夜に運んだ分だけでもそれなりにあるから、どうにかなるだろう。ちゃんとした建物が間に合わなかったら、貧乏探索者向けの宿としてプレハブを活用してもいいしね
(ホームセンターには完成品のプレハブの見本が置いてあるので、それを丸ごと運べばそのまま使える! もちろんプレハブも無限在庫)。
なんといっても、こっちは「権力サイド」である。上からヤイヤイ言われずにやれるというのはデカい。
なぜこんなに食料や建材があるのか? と疑問に思う人がいたとしても、「領主の備蓄」と言えばOKだ。一事が万事それでいける。別に領民にとって不利なことしてるわけじゃないので、多少の疑問は感じる人も出てくるかもだが、それ以上のことは起こりようがない。
鼻のいい商人なんかは異常さに気付くかもだが、私たちがやっているのは基本的に儲け話だ。問題はないだろう。
問題は、より上位の権力である「国」だが、国にまで情報が行く頃にはこっちはとっくに軌道に乗っているはず。
ま、いずれにせよ賽は投げられたのだ。
――といった感じで、急ピッチでメルクォディア迷宮街再始動計画を進めている。
時間はないが、かといって延期も厳しい。
なにせ、毎日潜っていたアレス君とティナちゃんや、彼らが連れて来た街の人(どうも商人らしい)が毎日ダンジョンの入り口まで来て、まだかまだかと再オープンを急かしてくるのだ。
いきなり大人数を呼び込んでスタートするよりも、試運転がてら多少内容に不安があってもプレオープンして、メルクォディアに慣れているアレス君やティナちゃんたちといっしょにすり合わせをしたほうが良いと考えているというのもある。
「う~ん。また例の魔法陣からお手伝い魔族を呼び出しちゃうかぁ?」
「え?
フィオナは反対らしい。
ドッペルゲンガーのドッピーを呼び出したところまではまだ良かったが、自称神の一柱であるセーレを呼び出してからは、けっこうビビっているようだ。
セーレは、見た目は人間というか、白馬に乗った貴公子といった風情だが、全然しゃべらずフリップボードに文字を書いて筆談する変わり者である。
まあ、手伝ってと言えば普通に馬から下りて手伝ってくれるし、悪い奴ではない。というか、何を考えているのかよくわからないと言ったほうが適切かもしれないが、いずれにせよ、契約は絶対らしいので変なことをする心配は薄いだろう。
『レディ、マホ。よろしいですか?』
コンパネに釘を打ち付けていたセーレが、フリップに文字を書き何かを訴えている。
イケメンは目力も強い。出会ってから日が浅いが、セーレはあんまり意見を言わないタイプだ。契約を重視するタイプだからか、私の命令にはかなり忠実な感じ。まあ、そもそも喋らないんだけど……。筆談でも別に困らないけどさ。
「どうしたの?」
『あの召喚陣は私を喚びだしたことで力を失いかけています。小物ならわかりませんが、大物を呼び出すならあと一度が限度でしょう』
「えっ⁉ そうなの?」
じゃあ、人手を呼び出すのは悪手か……? 今後、なんかあった時に切り札になり得るものだし、改装のお手伝いなんて、ある意味、誰でも出来ることのために使うのはもったいないな。
「ありがとありがと。召喚はやめとくよ」
私がそう言うと、セーレは特に表情を変えることもなくマントをひるがえして釘打ちに戻った。
多数決的にもフィオナとセーレで反対2だし、人手に関しては別の手を考えよう。
「今日のところはこれくらいにしないと、マホ。そろそろ時間」
フィオナが腕時計の時間を確認して言う。
彼女にはホームセンターの時計売り場で好みのものを選んでもらって渡してある。
さすがに数字の形は地球のアラビア数字とこっちのソレとは違ったが、時間の概念は同じだったようですぐに慣れてくれた。
「もうそんな時間か。じゃ、一回戻ろっか。着替えなきゃだしね」
今日は大事な約束があるのだ。
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