第6話 チーズハットグ


張飛の実家は、涿郡の群城内にあった。悲しいことに、到着したときはあいにく夜だったので、お城の門は閉じている。彼女らは『もう野宿でもいいや。私達キャンプは好きだしね』と考えて、あっさり野宿することにした


「野宿ですかぁ……お星さまを眺めながら眠るなんてロマンチック……」


張飛の言う通り、野宿も案外楽しいかもしれない。

張飛は、薪を集めた。


「薪で火を起こすってワイルドで格好いいぜ!」


関羽が薪で火を起こしている間、張飛が口の中で何やら呪文を唱え始めた。

すると………あら、不思議

張飛の手が桃色に光り、空腹感をこれでもかと刺激するが現れたではないか!


「ほら、薪に火がついたぜ!」


関羽は喜色満面の笑顔である。


さて、薪に火がつくや否や張飛はチーズハットグを火に近づけた。チーズハットグがこんがりときつね色に焼けていく。何と香ばしいことか。どんなに美味しいチーズハットグでも熱々じゃなければ意味が無いのは今も古代中国も変わらない。


「 わたし、チキン南蛮やとんかつやチャーシューを一杯載せたラーメンとおんなじくらいお口の中を幸せにしちゃうチーズハットグをだしちゃいました! 関羽お姉様、あーんしてくださいね!」

「へへ、ありがとうよ♡あたしのマイスウィートハニー張飛ちゃああああん」


関羽が大興奮しながら張飛に抱きつき、

チーズハットグにかぶりついた。


「ウフフ、関羽おねえ様ったら♡」


チーズハットグとは、韓国の人が考え出したサクサクの衣ととろ~りとしたチーズが最高のおやつで、あまりにも病みつきになる美味しさなので古代中国の人々にも大受けだ。張飛のように魔法の使え無い一般の人々は串に刺したチーズに衣をつけて揚げてケチャップやマスタードをかけて作る。


「将来、天下が平和になったら……お口に入れた途端、わたしの魔法で……お空に浮かぶふわふわの雲の上で寝転んでいるみたいに……夢心地になっちゃう佳肴ごちそうを出して……世界中の人を招いて、パーティーがしたいです。」

「」

「ホビットさんやエルフさんにもお腹が膨れるくらい食べて欲しいなぁ」



 魔法で材料もなにもないのに一瞬にして出来立てほやほやのチーズハットグを精製できる張飛ちゃん、豊かな胸ならお姉さんが交換して差し上げますから、その魔法の力を、わたくしに譲ってくださらないかしら?


「よーし! 張飛ちゃんの超弩級の素敵な夢を叶えるためにもあたし、関羽様のいっきとーせんの武勇をみんなの役に立ててやるぜ!」


 関羽が高らかに宣言した。

そして、今、関羽が食べているのは見ているだけでお腹が鳴ることは間違い無しの美味しい美味しいチーズハットグなのである。




「ーーーーーー美味しそうですね。流石は、貴女方のような力強い美しさと輝きを持ったお嬢さんのお腹を満たすのに相応しい最高のチーズハットグです」


とつぜん、宝塚の男役のようなカッコつけてないのにカッコイイ声がした。


「な、なんでしょう!? 天使の奏でるハープのようなお声♡。このお声を世界中の人に聞かせてあげて感動を分かち合いたいです」


張飛はすぐに宝塚の男役のようなカッコつけてないのにカッコイイ声の魅力の虜囚になった。つまり、メロメロになったのである。


「こ、こんなにあたしのハートをつかんじゃうような声を聞いたのは……張角たん以来だぜ」


関羽は目を閉じてうっとりした。


張飛や関羽を一瞬で骨抜きにした声の持ち主は、100%眉目秀麗なイケメンであろう。

というわけで二人が一斉に振り向くとーーーーーー

すぐそばに、声と同じくらい妖美で爽やかで眉目秀麗な少女漫画から抜け出たような王子様が薔薇を加えて片膝を立ててしゃがみこんでいた。

この王子様が片膝をついてしゃがみこんでいるだけで少女漫画のワンシーンのようだ。


「薔薇をどうぞ、お嬢さんたち 美しいひとには、薔薇がお似合いだ」


王子様は真紅の薔薇を取り出した。


「嗚呼、とてもたおやかで太陽のように眩しすぎるご自分のお姿を知らない幼気なお嬢さん、貴女はまだ、ご自分の見目麗しさに気づかないようですね。天国にいる西施や王昭君が貴女の輝きに憧れていると僕は断言致します。貴女のように美しくて内気なお方こそ僕のプリンセスだ。そして、彫刻のような肉体美を誇る逞しいお身体に乙女心を秘め、澄んだ瞳に整った目鼻をした凛々しく精悍な美貌のお嬢さん、たとえ世界中の愚鈍な男の人が貴女の愛を拒んでも、僕は貴女の愛を喜んで受け止めますよ」


関羽も張飛は薔薇と同じくらい真っ赤になった。



「さぁ、おいで。二人のお姫様 僕の胸の中で はち切れそうなハート を満たしてさしあげましょう」


関羽と張飛は反射的に服を脱ぎはじめた。

早く王子様と快楽を共にしたいからだ。

二人はまるで矢のような速さで、王子様の逞しい胸の中へダイブした。


「え!?」


関羽は首を傾げた。


「あら!?」


張飛も小首を傾けた。


「素敵な王子様の逞しい胸に触り慣れた柔らかいナニかが……」


二人は声を揃えて言った。



「あ、あなた、よくみたら女の子じゃねぇか!?」


関羽は容姿端麗な王子様が女の子だと気づいた。


 「女の子だったら誰だって目があっただけでハートになっちゃうだろうし、そのままのデザインで少女漫画に出てきたら恋に落ちちゃうくらい格好いいし、声もちょっと聞いただけであたしの場合はラーメン五十杯はお代わり出来ちゃうくらい心地良いけど、よくみたら女の子じゃねぇか!?

女の子なのに……女の子なのに……こんなにイケメンだなんて……あたし、超羨ましいぜ!」


 関羽に言われて張飛もまたよくよく目を凝らしてみる。


「え!? お……王子様が……女の子ですって!?

わ……私達の出てくるお話のジャンルって……『三国志』って……モンスターからエルフさん達を護ってあげたり、王子様とあま~い恋をするラブコメディじゃなかったんですか!?」


憧れの人が実は男装した絶世の美女であったという衝撃の事実に、無論、張飛の心境は、驚天動地超びっくりであった。


「嗚呼、プ〇パラの無印第73話で紫京院ひびき様が、女の子だったって判明した時の倍以上心臓がキュってなっちゃいました」



「男とか女とか、どっちでもよいではないですか」



「美しいお姫様達、貴方方が僕をお忘れになっても、貴方方の尊いお名前を僕は忘れられません。僕は劉備リュウビと申します。どうかお見知りおきを。」

「はいはーい、質問でーす。劉備リュウビとかいて《玉のように美しい王子様》と読むんですか!?」

「嗚呼、女神様、知恵のある乙女に祝福を! 張飛さん、貴女の仰るとおりです。だから、人は僕をこう呼びます。『素敵なお嬢さんのいじらしいお心や夜の闇をも明るく照らす眩しい美貌を……褒め称え……お城へお迎えするために……白馬に乗ってはるばるとやってきた……影さえも美しい王子様』とね。こんなところでまたお二人のようなお姫様を笑顔にできるなんて……まさに王子様の誉れ……夢のようです。女神様に感謝のお祈りをしなくてはなりませんね」


「あ、あたしには……あたしには……張角たんがいる……あたしには……張角たんがいる……

で、でも……焼き肉食わぬは女の恥って言うし……」

それを言うなら据え膳食わぬは女の恥である。

関羽はどれだけ、焼き肉好きなのだろうか?


「目を覚ませ……あたし……劉備様は女だ……」

「嗚呼、劉備様、そのエメラルドのような瞳で私達をみつめないでください」




「フフフ……貴方方の瞳こそサファイヤのように輝いていますよ。ん……宝石!?」 


劉備は何かを思い出したようだ。


「これは大変失礼いたしました。この劉備、一生の不覚です。申し訳ありません」


「実はこの箱の中で、琳琅珠玉宝石くん達が貴方方に身につけてもらう時を待ち焦がれていたのに、お二人に夢中ですっかり忘れてしまいました。美しいお姫様には、色とりどりの宝石の宝飾品プレゼントをさしあげるのも僕のような王子様の役目なのにね……」


劉備は一瞬肩を落としたが、直ぐに投げキッスを飛ばした。


「」

「」



「王子様とは、全ての女の子を愛するために生まれてくる心も容貌も声も美を司る神様のこと、ギリシャ神話のアポロンや北欧神話のフレイのような美男子のこと、すなわち、僕のことなのです。……僕は、全ての、女の子を愛するために生まれてきました……貴方方と同じくらい美しいお嬢さんの華奢な身体がこれ以上やつれてしまえば……胸がズキズキと痛むのです」



「怖がることはありません。ご自分のペースで出てきて良いんですよ」



「人の世界では『類は友を呼ぶ』と申します。悪い人の近くには悪い人ばかりが集まりますが、貴女の近くには貴女のように、心清らかで見目麗しい女性が集まります。こちらのお二人もまた、花も恥じらうレディ、つまり、貴女のお友達です」



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三国志 薄雪姫 @KAGE345

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