――私立碧海学院附属中等部しりつせいかがくいんふぞくちゅうとうぶ体験入学会。

「遅い。暑い。10時に校門前で待ち合わせって言ったの、芽衣なのに」

 小学校六年生の一ノ瀬梨音いちのせりおは、校門に立て掛けられている看板と腕時計を見比べてうなった。

 木陰こかげにいるけど、夏休み今日は、朝から日差しが強くてじっとしているだけでも背中が汗でベタベタしてくる。

 少しでも涼しくなるようにと、着ている半袖はんそでパーカーのすそをつまんでパタパタゆらして風を送り込む。

 そんな梨音の前を通り過ぎていく女子の一団が、こちらに視線しせんを向けてキャッキャッとはしゃいだ声をあげる。

 本人たちはボリュームを押さえているつもりなのだろうけど、振り返ってまで梨音の顔を確認して「カッコイイ」「王子さまキャラ」と言い合っているのが聞こえてきた。

(また男の子に間違えられた)

 梨音は短く刈り上げている後頭部をでる。

 小学四年生からミニバスをしているせいか、女子にしては背が高く、せて髪も短く刈り上げている。

 性格も服装も男の子っぽいので、男の子に間違えられることが多い。

「梨音君、お待たせ」

 背後からは弾むような声が聞こえてきたかと思うと、体当たりする勢いで腰に腕が巻き付く。

「わっ」

 驚いた梨音が少し背中をそらせて、背後に視線を向けると、まん丸な目をした長い髪の女の子がにっぱり笑ってこちらを見上げている。

芽衣めい、遅い」

 文句を言う梨音に、芽衣は「ごめん、ごめん」と謝った。そして腰に回していた腕を離すと、今度は梨音の腕にぶら下がる。

「そんなことより、梨音君、また男の子に間違えられていたね。さすが私の王子さま」

 芽衣にも、さっきの一団の声が聞こえていたらしい。

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