王子さまとニセモノ王子

とうの

プロローグ


 初恋はいつ?


 もしそう聞かれたら、一ノ瀬いちのせ梨音りおは「六歳の時」と答える。

 相手は二歳年上の仁藤にとう友樹ゆうき君。

 優しくて、物知りで、女の子みたいにキレイな顔をしている彼のことを、梨音は心の中で「王子さま」と呼んでいた。

 後々思い返すと恥ずかしいネーミングだけど、小さな梨音には、本当に絵本から抜け出してきた王子さまのように見えていたのだから仕方ない。

 両親りょうしん離婚りこん苗字みょうじが「佐倉さくら」から「一ノ瀬いちのせ」に変わる前、まだ「佐倉梨音さくらりお」だった頃、毎週末、彼に宇宙の作り方を教えてもらっていた時期がある。

 といっても、それは特別な魔法なんかじゃない。

 リアルな世界で、友樹は、縦と横、十九本の線が交差する碁盤ごばんの上で、白と黒の石で宇宙を作っていた。

 友樹は、大きくなったら囲碁いごのプロ棋士きしになりたいと話していた。

 そんな友樹に、梨音が囲碁という宇宙の作り方を教えてもらっていたのは、ほんの二カ月ほどの間のこと。

 しかも最後は、彼が自分のことを嫌っていると聞かされて、なかなか悲しい終わり方をしたのだけど。

 でも彼とのその時間は、間違いなく梨音の初恋の思い出だ。


 といっても、気がつけば梨音自身が「王子さま」と呼ばれる存在になっているので、恥ずかしいので正直にそのことを話す気はないのだけど。

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