ホームシックには緑茶を添えて

 年に数回、私のもとには実家から様々な物が送られてくる。送り主は、心配性な私の母。その内容のほとんどは保存のきく食品や生活用品で占められており、実は大変ありがたかったりするのだ。だが、私も一人立ちした立派な社会人。


「もう、お母さん。私は大丈夫だからこういうのは必要ないよ」


 なんて強がりを言ってはみるものの、毎回のように母はこういった物を送ってくれる。まるで私の心情を見透かしたようなその行動に改めて母の偉大さを感じます。いやはや。

 そして、今回も私のもとに様々な物が届いたのだが、その中でも一際目を引く物が一つ。それは『緑茶の茶葉』だった。

 私の故郷である静岡県産の高級茶葉。叔父が営む茶園でとれたこの茶葉は、毎年のようにゴールデンウィーク空けのこの時期に、私の実家へと送られてくるのだ。


「あぁ~……もうそんな時期かぁ」


 お茶処静岡では、子供の頃から慣れ親しんだ味。だが、一人暮らしの今では急須でお茶を嗜む機会がめっきり減ってしまっていた。


「よし!せっかくだし、今日は緑茶でまったりといきますか!」


 そうと決まれば即行動。私は早速お茶を淹れる準備を整える。ううん、どうせならとびきり美味しいお茶を淹れてやろうではないか。

 便利な時代になったもので、普段お茶を淹れる習慣の無い私でもネットで調べれば美味しいお茶の淹れ方が簡単にわかってしまう。うーむ、文明の利器万歳!


「えーと、こんな感じかな?」 


 まずは湯呑みにお湯を注ぐ。沸かしたての熱湯はお茶にそぐわない。こうやって湯呑みを温めつつ、お湯を冷ますのだとか。

 続いて茶葉を急須に入れる。人数×2、3gくらいがちょうどいいらしい。ケチっても欲張ってもいけません。ほどほどに、ほどほどにいきましょう。

 そしたらいよいよ急須にお茶を注ぎます。湯呑みで冷ましたお湯を、ゆっくりと戻しましょう。温度の目安は70~80℃程。火傷をしないように気を付けて。そしたら茶葉が開くまで一分くらい待ちましょう。…………むむむ。この待ち時間、妙にソワソワします。

 後は湯呑みにお茶を淹れるだけ。複数人に淹れるなら、少しずつ均等に注ぐ『廻し注ぎ』なる方法をするそうなのだが、独りぼっちでお茶を嗜む私には関係の無いこと。むしろ行程が一つ減ってラッキーだね!……ぐすん。

 ともあれ、普段より一手前かけた緑茶ができました。ではさっそく。


「ん……。ふー、旨い!」


 美しい緑色の茶を口に含むと、爽やかな甘味と豊かな香りが口内に広がった。苦味や雑味は全くなく、手前をかけた甲斐があったな。なんて、一人で頷いてしまう。だが……。


「美味しいなぁ。うん、美味しい。けど、ちょーっと違うんだよなあ?」


 確かに想像以上に美味しかった。だが、私が実家にいた頃飲んでいたお茶とは味が違う。


(同じ叔父さんの茶葉なんだけど。……もしかして私の味覚が変わったのかな?ま、いいや。もう一杯飲も)


 首を傾げながらも、もう一度お茶を淹れる。だが、さすがは私。この短時間ですぐさま持ち前のズボラが顔を出す。

 せっかく調べた手順を無視して私は適当にお茶を淹れる。だってすぐに飲みたかったんだもの。そうして入ったお茶を再び口に含んだ。


「……ん?この味?」


 子供の頃から慣れ親しんだ味。どこか懐かしい、ホッとするお茶がそこにはあった。


「な~んだ。お母さんも適当だったんだ。……フフ、親子だねぇ」


 昔から母が淹れてくれたお茶はこんな感じだった。お茶の味から遠くにいる母に思いを馳せるなんて、ロマンチック……なのかな?いや、まあでも。みんなお茶の淹れ方なんて結構テキトーだよね?だよね!?


(今年のゴールデンウィークは帰省できなかったし、近いうちに帰ろうかなぁ?)


 空になった湯呑みを見つめながらそんなことを考える。まあ、大抵考えるだけなんだけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る