太陽に乾杯

 習慣というのは恐ろしいもので、日曜日の朝だというのに、私はいつも平日と同じ時間に目を覚ましてしまう。もちろんまだまだ惰眠を貪っていたいのに、起きてしまうのだから仕方がない。だが、裏を返せばこれは『二度寝のチャンス』とも言える。普段は仕事の準備をしないといけないタイミングでの入眠。これもまた至福の一時だ。


『早起きは三文の徳』


 なんて言葉もあるが、たった三文の損失でこの幸福感を得られるなんて安いものだ。小学生の時、校長先生が


「お金を得ることだけが幸せではありません」


 と何度も言っていたが、きっと彼はこのことを言っていたのだろう。ああ、あの頃から世の中の真理を伝えてくださっていたとは、なんて立派な教育者だったのだろうか。ウチの校長先生は。

 大体日曜日以外は早起きしているのだから、理論上は十八文の徳になっているハズだ。これ以上を望むなど、それこそ強欲だと謗りを受けてしまう。ああ、コワイコワイ。

 そこまで思考が至ったところで私の意識は深い微睡みに落ちていく。そして、次に意識を取り戻した時、時刻はすでに十一時頃になっていた。


「ふうぅ~~……よく寝たぁ」


 大きく背伸びをし、布団から這い出ると洗面所へと向かう。そして、歯を磨きシャワーを浴びると遅めの朝食兼、昼食を軽めにいただくことにする。そう、あくまでに、だ。

 食事を済ませるとゆったりとソファに腰掛けながら、ネットサーフィンに勤しむ。最近のトレンドは海外のお馬鹿な動画を眺めること。良くない考え方であることは重々承知だけど、IQの低そうな人達の動画を見ていると、将来にちょっとだけ希望が持てるのです。

 また、今日という日を怠惰に過ごす為のコツして、面倒な事は土曜日のうちに済ませておく。ということがある。そうすればこうやって日曜日には堂々と時間を浪費できるのだ。……怠惰に過ごすために苦労は惜しまない。それが私の流儀なのです。

 そんなこんなでだらけていると、腹の虫達がやいのやいのと騒ぎ始める。今日はまだ軽いブランチしか食べていないのだから当然といえば当然だ。だが、外はまだ明るく太陽は高い。夕食にはまだまだ早い時間だ。しかし、このタイミングでの空腹は、私にとって計画通りと言わざるをえない。

 腹の虫達がスヌーズ機能を発動させる前に、私はキッチンへ向かうと、幾つかつまめる物を用意する。そして、冷蔵庫からキンキンに冷えたを取り出した。そう、ビールである。

 労働の後に飲むビールは美味しいが、明るいうちから飲むビールもまた、格別に美味しい。まあ、つまりはいつ飲んでもビールは美味しいのだが。

 社会人になりたての頃は、明るいうちからアルコールを飲むなどいけないことだという先入観が常に付きまとっていた。だが、今ではその背徳感を肴にジョッキを空にできる人間になってしまいました。

 それを成長と呼ぶか堕落と呼ぶかは人によってことなりますが、私は断固成長だと思っております。……自分に甘い?仕方がないじゃないですか。この年齢になると誰も甘やかしてくれないんだもの。自分で自分を甘やかすしかないのです。

 誰に言うでもなくそんな言い訳を並べつつ、缶ビールのフタを開ける。そして、『プシュッ!』という炭酸飲料独特の音を聞きながら、ビールを一気に流し込む。


「んっんっんっ……ぷはぁ~~!」


 風味とのど越しを楽しむと、間髪入れずに用意したつまみに箸を伸ばす。そして再びビール。


(ああ!幸せ!)


 平日、中々見ることができずに溜まっていたテレビ番組の録画を消化しつつ、マイペースで酒を飲む。そんなことをしているうちに、外はすっかり暗くなっていた。


「ふふふ~。いいきもち~」


 明日の仕事に差し支えない程度にアルコールをとどめると、私はさっさと寝る支度をして床につく。まだ寝るには早い気もするが、起きていても特にすることはないし、何より単純にすごく眠い。


(よーし!充電完了!明日からお仕事、頑張るぞ!)


 しっかりと英気を養い、私は目を瞑る。こうして私の怠惰な一日は過ぎていくのだった。

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