サヨナラ罪悪感

 突然ですが、問題です。私、葛井一二三くずいひふみは日頃、適度な運動をしているとお思いでしょうか?……答えはNO。これに関しては胸を張ってそう答えることができます。

 で、あるならば。しようではないか。運動というものを。

 だが、しかし。ここで一つの問題点にぶち当たる。


『だらだらと日曜日を過ごす』


 ある種の信念ポリシーともいえる私のこの思想に、運動は全くもって似合わないのだ。

 だが、しばし。しばし待っていただきたい。この運動という行為は、より良い休日を過ごす為に必要な『儀式』の様なモノとも考えられる。

 運動によって血の巡りが良くなれば、全身のコリが解消するし、適度な疲労は睡眠の質を向上させる。そして何よりは、怠惰に過ごした私の罪悪感をゴリッゴリに軽減してくれるのだ。

 ついポテトチップスを食べ過ぎようが、バチクソに昼寝をかまそうが、一日中家に引きこもっていようが


『でも私、運動したし』


 その一点だけで、残りの休日を平穏無事に過ごすことができるのです。恥ずかしながら。

 ほんの少しの運動が、怠惰な私の負い目を無くす。で、あるならば。やるしかないでしょ。レッツフィットネス!


「さぁて。じゃ、何からしましょうかね~っと」


 軽い屈伸をすると、顎に指を当て考える。そして、まずはスクワットから始めようと思い至った。


(スクワットなら学生時代、体育でやらされたし。大丈夫でしょう)


 昔を思い出し、肩幅に足を開く。そして呼吸とフォームに意識を集中させると、最大まで腰を落とした。後はここから体を上げていくだけ。


「ふんっ!!」


 だが、勇ましい掛け声とは対照的に、私の体はぽてっと、仰向けに反り返った。まるで服従した犬の如く自らの腹を天井にさらけ出すと、私はふぅっと溜め息を吐いた。


「……まあ、こんな日もあるか」


 あまり体重がある訳ではないのに、体が全然上がらない。と、すればこれは筋力不足にほかならないわけだ。だが、筋肉というのは一朝一夕で身に付くものではない。故に、スッパリと諦めることもできる。


「さ、切り換えていきましょう。とりあえずは出来るコトから……ね」


 続いてチャレンジしたのは腹筋運動。目指すは腹部に燦然と輝くシックスパック。人類がお腹に付けたいパック第一位でお馴染みの、あのシックスパックだ。


「ふっ!ぬんっ!……ぐぐぐ」


 仰向けに寝転び、膝を曲げ、上半身を起こそうと私は必死に唸り声をあげる。だが、上体は一向に上がる気配を見せない。


(も、もう無理ぃぃ~~……)


 ぶふっ!と息を吐き出すと、両腕を頭上に投げ出した。


「ふぅ、ふぅ……。キッツ」


 スクワットも駄目。腹筋も駄目。ならば次に挑む運動は、筋トレの王道『腕立て伏せ』だ。そして、ある程度察しの良い人間ならばこの先の展開も大方予想がつくだろう。そう、腕立て伏せも全然できなかったのです。……いや、努力はしたんですよ?

 結果はどうあれ私はこの日、自身の限界にチャレンジしたのだ。なれば、午後の時間はより一層怠惰に過ごし体力回復に努めなければならないだろう。

 大義名分を得た私は、この日。残りの休日をたっぷりと楽しんだ。そして、普段以上に美味しいと感じた晩御飯をついついおかわりしすぎてしまった。だが、問題はありません。私には魔法の言葉があるのです。

 胃に溜まった晩御飯と胸につかえる罪悪感を吹き飛ばすように、私は心の中でをひっそりと呟いた。


(でも私、運動したし!)

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