愉快な訪問者 ①

「ひーふーみーちゃーん。あーそーぼー」


 電話越しに彼女がそう言ってきたのは、土曜日の夜のことだった。

 電話の主の名前は月見里秋葉やまなしあきは。私の高校時代の友人で、同じ会社に勤める同僚である。


「えー。私明日は忙しいんだけど」

「いいじゃん。どうせまた、『怠惰に過ごすー』とかいうだけでしょ?ヒフミンは」

「だぁかぁらぁ。それが必須事項なの!」

「まぁまぁ。ヒフミンにゃ迷惑はかけないからさ!」

「いや、だからそもそも……って、切れてるし」


 いつもの調子に私はハァっと溜め息を吐く。


(ほんと、秋葉はいつも急なんだから……)


 そこが彼女の良いところでもあるし、友人の少なかった私は学生時代、その奔放さに救われたこともあった。


(ま、たまにはいっか。そういう休日も)


 せっかくの友人からの誘い。ならばしっかりと楽しもう。私は決心すると、深い眠りへと落ちていった。


『ピンポーン!ピンポーン!』


 日曜日の朝。インターホンが鳴ったのは、丁度私が朝ごはんの片付けを終えた直後だった。慌ててドアスコープを覗くと、そこには笑顔を浮かべた秋葉が佇んでいる。

 ショートカットにボーイッシュな服装、その上私よりも身長の小さい彼女は、少年と間違われることもしばしばあるのだ。


「おう!おはよー、ヒフミン!」

「おはよう、秋葉。……って早くない?」

「いーじゃんか。そうでもしないとヒフミン二度寝するっしょ?」

「ま、まあ。するけど……」


 最短距離かつシンプルな正論にぐうの音もでない。まあ、『ぐう』なんて音をだしたことはそもそもないんですが。


「で、遊ぶってどうするの?どっか行く?」

「ふっふっふ。この月見里秋葉。英語は読めなくても空気は読める女!ちゃあんとヒフミンの為にこんなものを用意してありますぜ!」


 わりとこの子は空気も読めないが黙っておこう。話が進まなくなる。


「……って、DVD?」


 彼女が差し出したのはレンタルDVDの手提げ袋だった。


「そそっ!アタシはヒフミンと休日を過ごしたい。ヒフミンは家から出たくない。だからお家でB級映画鑑賞会でもしよっかな~って」

「そんな人を引きこもりキャラみたいに……」

「でも実際そうじゃん」

「ぐっ!」


 二発めの正論に、私の内なる一二三ひふみが膝をつく。


「……わかったわよ。でも、DVDなんて借りてこなくてもネットに繋げば色々観られるわよ?ウチ」

「わかってないな~、ヒフミンは。こうやってアタリかハズレかわかんないヤツを敢えて借りてくるのもB級映画探しの醍醐味なんだよ」

「……ふぅん。よくわかんないけど、秋葉がそれでいいなら良いわよ。まあ立ち話もアレだし、あがって」

「お邪魔しまーす!」


 ペコリと一礼をすると、秋葉はいそいそと私の部屋にあがるのだった。



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