第20話 護るべきもの

さぁ、ようやくこの時がきた。

全てがこの日のため…


【バッチシ決めていて!】


るいの選んでくれた服で、スニーカーで。

玲奈との再会に。向こうは初対面だから、

会話に気をつけないと。あと、るいのことも。


でも、結局水着になるんだよな。

るいが選んでくれた服だから、ぎりぎりまで

着ていよう。


【るい、ちょっと離れたことで見てて】


【解った】


【タイミング次第で呼ぶかも】


るいは、うなづいた。


ここまで、来て失敗は出来ない。

慎重に、とにかく慎重に。


車で3時間程、かかった。この海だ。

ここで玲奈と会うんだ。必ず…

気合い入れ過ぎだ、昼前についてしまった。


【玲奈って何がきっかけで会ったの?】


【俺が溺れる。玲奈に助けられる……何も

言わないでくれ、何も】


【……………だっさ!】


るい!もー…過去の汚点。


【でも、玲奈、水着でしょ、もちろん】


【そりゃ、海だから】


【ふーん、それで助けられるんだー】


【なんだよ】


【別にー、水着ねー、ふーん】


るい、何かいいたそうだな、察知した。

俺からは何も言わない、悪い予感がする。


【じゃ、行ってくる】


【水着の玲奈にヨロー】


るい、完全におちょくってるな。


さぁー、泳ぐぞー、溺れるぞー

ひゃ、冷た!そろそろかな。とりあえず、

溺れるふりで。


痛!ピキーン、足がー、足がー、ヤバい。

不覚にも足つってしまった。

マジですか、完全にこれ、溺れる…


【涼ちゃん…演技ウマ! 5年以上いて

気が付かなった、劇団入れるよ、あれ】



ヤバい、これはほんとヤバい。

息が、目の前暗くなってきた…

意識失う…川が…見える…とてもきれいな…


【大丈夫、ゆっくり呼吸して】


助かったー、ヤバかった。


あっ、玲奈! ここから始まった。

嬉しい、涙が溢れる。落ち着けー、落ち着けー


【大丈夫ですよ。念のため病院行きますか?】


玲奈、抱きしめたい。でもこれは駄目だ。

我慢、我慢。


【ありがとうございます。大丈夫です】


玲奈は笑ってくれた。玲奈も安心してくれた。


【涼ちゃん!!】


るい、お前合図してないだろ、何やってんだ!


【向こうでほんとに溺れるの見えたから、

でも良かった】


【こちらの女性に助けてもらって…】


玲奈がキョトンとして、はっと気がついた。


【あの時の病院の…大丈夫でしたか】


るいー、ほら何やってんだよー、台無しだよ。


【あっ、あの時はほんとありがとう、連絡先番号間違えてメモしてしまい、ごめんなさい】


玲奈が、クスッと笑って、


【あっ、それで繋がらなかったんだ!】


あれ?辻褄あってしまった。るい、ナイス!

これで説明しやすい。るい、アメージング!


【あのー、るいと知り合っていましたか?】


【はい】


【るい、助けてもらったの、倒れたときに】


【そうでしたか、るいがお世話になりました】


玲奈は俺達二人を見てニコニコ。


【フフっ、お似合いですね】


違ーう!勘違いだー、玲奈。るい、どうする?

何か言ってくれー、るいー、どうした?

頼む、得意だろ。こういうの。


【兄なんです、るいの】


そーきたか。妥当だと思うけど、兄と海って…


【あー、そうなんだ。雰囲気いいから、仲いいのもあって彼氏彼女かと】


【そ、そうなんです。すみません、兄妹そろって助けていただいて、連絡先を間違えるダメな妹で】


と、瞬間!足に激痛が、痛ーーーーー!

るいに思いっきり踏まれた。裸足だぞ!

るいのヤツ、マジで踏みやがった。


【ごめーん、踏んじゃった、お兄ちゃん】


こいつ、ワザとだ。あー、痛ーなー、もう、


玲奈は思いっきり笑って、


【仲のいい兄妹、だって海来てるし。やりとり面白い!私にも妹がいて、事故で、それで子供引き取ったの、今、この子の母親になって】


子供?未来変わってるかな?そーか、それで…

なるほど、子供がいたこと理解出来た。


【すみません、辛い話を…】


【いいんです、この子、幸せにするのが私の

幸せだから】


玲奈ー、やっぱ素敵だなー。こりゃ、惚れる。

もちろん子供とかいても俺は玲奈を幸せにする。

子供ってどこにいるのかな?挨拶しないと。


【お子さん、どちらに?】


【ユキー、こっち来て】


えっ!ユキ!、おい、るい聞いたか!

るいも動揺してる。ユキ!同じ名前だけだよな?

パラレルワールドで最初からって、融合して、

だとしたら、だとしたら、全て、

時期的に合ってる。

でも、小さい頃のユキに似ている…


【この子、ユキって言います。ほら、ユキ挨拶

ちゃんとして】


【こんにちは…ユキ…です】


【こんにちは……】


俺は空を見上げて、確信した。間違えない!

ユキだ。俺の、俺の腕の中で消えてしまった、

ユキだ。


今でも覚えている。俺が再会を喜び、抱きしめて

その時に言ってくれた言葉…忘れない…


※※怒るわけないですよ、涙が溢れるだけです※※


ユキ…ここに来てくれたんだね。覚えてくれて

いなくていい、ここに、目の前にいる。

夢じゃないよな。


【あのー、大丈夫ですか?やはり病院に…】


玲奈が心配してくれている。その時は、いきなりもの凄い力でるいに引っ張られた。


【ちょっときて、バカ兄貴!】


【すみません。玲奈さん。すぐ戻ります】


【はい?ユキと遊んでますので】


痛い痛い、るい、引っ張りすぎだ。


【解ってるの?涼ちゃん、なんのために、

ここにいるの、気がついて!馬鹿…】


るい、涙浮かべている。


【玲奈とあって、これで良かったの!もう変えないで未来。お願い!しっかりして、ユキは記憶ないの!】


【るい…冷静にならないとな】


【涼ちゃん、幸せになって】


【うん。ありがとう。戻ろうと玲奈のとこ】


玲奈は無邪気に子供、というのかユキと遊んでる。

戻りながら、るいとアイコンタクトで

もう、大丈夫って返した。


【すみません。兄貴、大丈夫です】


【ほら、兄貴、ユキちゃん肩車して、飲み物買ってきて、ユキちゃん。好きなもの頼んでいいよ、このおじさん、買ってくれるよ。】


【そんな、遊んでもらって…飲み物まで】


【いーの、いーの】


【じゃ、ユキ…ちゃん、肩車しようか】


【うん!ありがとう。おじさん】


【おじさん………】


玲奈とるいが笑ってる。俺はユキを肩車して、

海の家に向かう。


【ほんと、いいお兄ちゃん、いいなーるいちゃん】


【そう…駄目駄目兄貴だよ】


【ねー、るいちゃん。本当にお兄ちゃん?】


【えっ…な、なんで、玲奈さん、そう思うの?】


【だって、何か仲良すぎっていうか…全てを解ってるのような…恋人みたい】


【恋人………か】


【るいちゃん?どうかしたの?】


【ううん。何でもない】


俺は二人の会話を知らない。肩車したユキと

飲み物買うのに並んでる。すると、ユキが


【おじさん…ユキと会ったことあるの?】


俺は不覚にもドキッとした。でも冷静に。


【何で、そう思うの?会ったことないかなー】


記憶ないよな、ユキ?


【そうだよね。おじさん】


【ユキちゃん、おじさんでなく、お兄さんね】


【はーい】


これで良かったんだ。玲奈、るい、ユキ。

みんなここにいる。守れたかな?みんなのこと。

これからも、俺が守っていかないと。


飲み物買って、肩車してるユキが楽しそう。


【ユキ、お父さん欲しかったの。こうして肩車してもらうの、すっごく嬉しい!】


【ユキちゃん、俺、お父さんなの?】


【あっ、ごめんなさい。ユキがそうだといいな、

って勝手に。ごめんなさい】


【じゃ、お父さんになれるように頑張っちゃおう

かなー】


【ユキはすっごく嬉しい!】


これは、間違っても涼さんて呼ばさないように

しよう。


夏の始まりの合図、南風が俺達を通過していく。

もう一度ここで。ここから始めよう。


今年の夏は、賑やかになりそうだ。


………………終わり………………






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう一度ここに ラグランジュ @space-time

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画