第14話 記憶

俺はこの先に何があるんだろう?


もう全てが暗闇だ。何もない…何も感じない…


それでも残酷に通常の生活はやってくる。

何もなかったように通勤の混雑。


【すみません、ドア付近で立ち止まらないで

ください!】


アナウンスが流れて、押し込まれるように車両の奥に。今の俺は何もないから、ただ流されるように。


ただ仕事して、返りにまた混んでる電車に乗り、

明日の休日は…ユキのいない初めての休日。


会えないと解ってる、初めての…


この先のことなんて考えられない。未来はもう俺には考えられない。


空は快晴、暖かい心地いい時期。遊んでいる子供達の声、鳥の鳴き声…なんて残酷な日常なんだ。


あの公園に行ってみるか、あの時の感覚は少し抵抗があるが…


ユキが触れた最初で最後のハンカチ、コーヒーと

少しユキの香りがする。


公園は凄い人混みで、休日ってこともあるけど家族連れで子供達がはしゃいでいる。


ユキとの思い出の公園、涼、涼さんって声がどこかで聞こえてきそうだ。


思えば、ユキの家族や友達、生い立ちなど聞いてなかったね。出会うのはいつも俺が困ったとき。

いつも助けてくれた。支えてくれた。


ユキの電話番号はあれから使われていない。

クリスマスパーティのときはユキとしか話してないから、もちろん誘ってくれた友達に聞いても


【ユキって、誰?お前途中で一人でドロンしたよな?それくらいしか覚えてないけど。また誘うよ。

あとお前少しおかしいぞ、病院行って見てもらったほうがいいかもな】


おかしいよな、俺。誰が見ても。


耐えられないんだよ、日々流れていく時間の中にいることが。公園で恥ずかしながら涙を流して、少し声を出して…どれくらいいただろう?


【おにいちゃん、大丈夫?】


小さな女のコが心配して話しかけてくれた。


【ハイ、これ】


クローバー🍀だ。四葉のクローバー🍀


【これあげるから泣かないで】


女のコは笑顔で帰っていった。

声が出なかった…ありがとうって言いたかった。


情けないなー、こんな姿、ユキ望んでいたかな?

辛い過去なんて人それぞれみんなあるよな。


忘れなくていい、辛くても覚えている、ずっと。


この先のこと、知らなくていい。

何回目なんてどうでもいい。ユキと出会ったこの時が俺の全てだ。


この世界の住人とか、タイムパラドックスとか、時間時とか、難しいことは解らなくていい。


空を見上げて、眩しすぎる太陽が微笑んて

くれている。


ここは思い出の公園。ユキと過ごした時間が

包み込んでくれている。


ユキを包んだフライトジャケットを着て、使ってくれたハンカチを握りしめて、俺に何が感じられるか?


そういえば、ユキの最後って見ていたか!俺!

あと一回って?何なんだったんだ?


俺は何か見落としてないか?なんで腕の中で消えたユキが死んだと思ったんだ?


思い出せ、なんとしても思い出せ、ユキの言葉。


あの時の言葉……………………………………


【大丈夫ですよ、ターニングポイントは】

あの時、ハンカチでユキのこぼしたコーヒーを拭こうとしたときだ。


【私の世界からいなくなったの、それまではパラレルワールドは存在しなかった、あの時が分岐点】

俺が本来いた世界、ユキが教えてくれたときだ。


【涼のせいじゃないよ、私が選択したの、でも楽しかった。忘れないよ、絶対に…】

最後のユキの言葉…思い出すの辛いけど…


でも、何か見落としてる。あと一回って言葉の意味が何なのか?この前後が思い出せない…

ユキはあと一回移動出来るんだよな、元の世界に。

寿命使い果たして…でもリセットしてやり直す?

パラレルワールド…あの分岐点からか?


そう願ってるだけか?俺が都合よく。

辛さから逃げているだけか?

ユキのいない世界に耐えられないからか。


【全てを失っても知りたいか?】

なんだ、突然 ! 漆黒の世界だ。ここは公園だろ?


それに、この声、あと時と同じだ。三回目だ。

前に聞いた時は、止められたよな、俺の行動を。

今回は俺に選択肢を与えられたような…


何を俺は答えたのか?どう伝えたのか?声に出してはいない、でも知りたかった。


まだ、終わってはいない、ユキのこと全て

知るまでは。終われない。

間違った選択だったとしても。


その瞬間、俺は見覚えのある場所にいた。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る