3-4 クリスマス・プレゼント
夏休みが終わり、秋が過ぎた。三上さんとは、もうあまり話さなくなっていた。僕はカメラを触ることが少なくなり、勉強に明け暮れる日が続いた。大学は芸術大学で写真を学ぶのではなく、文系の大学を受験することにした。山河市の実家の近くに「
僕は三上さんと同じ大学に行きたかった。そこで文化学や文学を学ぶつもりだった。しかし、それは叶わない夢となってしまったのだ。僕に留学はできないし、イギリスに親類もいない。だが、同じ学問をすることは出来るだろう。三上さんは文学部の文化学科に入ると言っていた。だから僕も、同じ科で大学生の期間を過ごしたかったのだ。
その日、僕は沢田空港のロビーへと来ていた。三上さんを見送るためである。
高校生最後の冬休み。三上さんは、12月25日日曜日の今日、卒業に先んじてイギリスへと飛び、様々な手続きをしてくる予定だった。イギリスの学校は来年の九月からスタートらしいのだが、親類の家へ行ってホームステイの準備をしたり、大きな買い物をしたいのだと言っていた。
「これで最後じゃないから」
三上さんはそう云うと、小さな包みを僕に手渡してくれた。
「これ、カナタ君へのクリスマス・プレゼント」
「ありがとう。何が入っているの?」
「後で開けてみて」
「分かった。本当にありがとう、三上さん」
それから、三上さんは機上の人となった。
僕は飛行機が飛び立った後の空をいつまでも見ていた。
三上さんからのクリスマス・プレゼントは、写真立てだった。ステンドグラスのような色とりどりの色ガラスの写真立てで、見ているだけで気持ちが弾んだ。
僕は予想外の突然のプレゼントだったので、お返しを用意していなかった。家で包みを解いた僕は、何をお礼に渡そうかと悩んでいた。
十二月三十日。その日僕は、本屋に居た。
⏤⏤ 何か、良いプレゼントはないかな。
それを考えながら、僕は本棚を眺めていた。
⏤⏤ この本なんか、どうかな。
僕が手に取ったのは「中原中也詩集」という文庫本だった。少し薄いだろうか。値段は手頃だった。二冊にしようか。
その後、日記帳のコーナーで僕を立ち止まった。えんじ色をした、厚いノートブックが目を引いた。
⏤⏤ これなんかも良いな。でも少し値が張るか。
僕は四年間使える日記帳と、詩集を買ってプレゼント包装をしてもらった。
街は年末年始に向けて、慌ただしく動き始めていた。僕は雑踏のなかで、過ぎてゆく高校生最後の冬休みの日を、かみしめていた。
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