3-5 卒業式の後で

 一月、大学受験の日。僕は、手応えを感じて、試験を終えた。その後、向陽大学の試験も終え、僕は無事向陽大学に合格した。

 三上さんにお返しのプレゼントを渡したのは、三月の合格発表の後、卒業式のことだった。


「これ、遅くなったけど、クリスマス・プレゼントのお返しだよ」

 ようやく日本に戻ってきた小川さんへ、僕はそう言い添えて、プレゼントを渡した。三上さんは、卒業式の後の教室ですぐに包みを開けた。


「私、詩集が好きなの。本当に有難う。……あと、これは日記帳ね」

「四年分の日記帳なんだ」

「大事に使うわ」

「ここから四年間、別々の道だね」


 三上さんはうつむいたまま、うん、とだけ小さく答えた。


「四年後には、全く違う自分になっているでしょう。カナタ君も、私も。それでも、過去は一緒よ。いままでの思い出が、写真のように残るの」

「これでサヨナラだね」

 僕は精一杯の笑顔を浮かべた。


「写真立て、大事に使うよ。大学は文系だけど、これからも写真を撮り続けるよ。そしていつか、プロのカメラマンになるんだ」

 三上さんは涙を浮かべていた。


「カナタ君は、立派なカメラマンになるでしょう。私は立派な小説家になるでしょう。道は別々になるけれど、いつかどこかで再会するでしょう」


 僕は涙で視界がにじんだ。継ぐ言葉が無かった。三上さんが続ける。


「カナタ君に、素晴らしい写真が撮れますように。私に素晴らしい文章が書けますように」



 それが、僕らの別れだった。




『恋カメラ 第3章 別れの写真』(結)

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