1-2 山田写真館にて

「いらっしゃいませ。あら、カナタ君」


 僕たちが山田写真館に入ると、見知った顔が受付カウンターに立っていた。同級生、山田テツローの母親だった。

「確か、絹子さんでしたよね。宮島カナタの父親です。今日はデジタル一眼レフを見にきたんです」


 父がテツローの母と話している間に、僕は店の中を見てまわった。


「キレイな形だなぁ」

 僕は、ショーケースの中のカメラに見とれていた。

「キャノンの、えーと……Dシリーズっていうのか。カッコいいなぁ。うわっ、本当に十万円位するんだ……」


 僕が驚きながら見ていると、絹子さんと父が近寄ってきた。


「ちょっと試しに撮ってみる?」と絹子さん。

「いいんですか。ありがとうございます」


 絹子さんがショーケースから、カメラを取り出して、僕に手渡してくれた。


「意外と重いんですね」

 右手に、ズシリとしたカメラの重さがのった。

「ある程度重くないと、手ブレをおこしやすいの。軽ければ良い、って訳ではないのよ」

 僕は頷いた。

「ここをプログラム・モードに直して……。ちょっと撮ってみて」


 パシャリ、と小気味良い音が響いた。

 シャッター音が、僕のイメージを刺激した。軽快な音をもう一度鳴らしてみる。


 パシャリ。



 その日、僕はデジタル一眼レフとCFカードを買った。三脚も買った方が良いと勧められたが、今日は止めておいた。


 それは僕のカメラ・デビューをした日のことだった。

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